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円相の構成

Construction of the circular aspect


久冨 敏明

HISATOMI,Toshiaki	Associate Professor ,Center for Design Studies



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はじめに

2009年1月「神戸ビエンナーレ2009」*1の一部門「アートインコンテナ」出展作品公募のための国際コンペティションが実施された。「円相の構成」を主題とした「Circular Step Sequence(以下「CiSt」と略す)」(図1)は入選30作品のひとつである。

また、「円」を主題にした作品「Circular Construction No.1(以下「CiC1」と略す)」(図2)と「円相」を主題とした作品「Circular Construction No.2(以下「CiC2」と略す)」(図3)を制作し、各々2007年と2008年に開催された「光のメタファー展」*2に出展した。これらの3作品は、「円」、「円相」、「円相の構成」について考察することにより構想された。

図1 CiSt

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図1 CiSt

図2 CiC1

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図2 CiC1

図3 CiC2

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図3 CiC2


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1「円」について

図形としての「円」を主題とした芸術の歴史は古い。それは、4000年以上前に建立されたストーンヘンジにまで遡ることとなる。その後、「円」は「点」や「線」とともに約2300年前、ユークリッドの原論において幾何学として定義された。紀元前80年に完成されたローマのコロッセオでは「円」から「楕円」(図4)へと拡張し、紀元前25年に建立されたローマのパンテオン(図5)では「円」から「球」へと展開していく。「球」を実現した背景にはアーチから始まるローマの石積み技術の発展があった。一方で、図像としての「円」は1つの中心を持つ図形であることによって、神や専制君主のような絶対的権力を表象し、また、建築計画においては一望監視システム(パノプティコン)(図6)を作り出した。

図4 コロッセオ

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図4 コロッセオ

図5 パンテオン

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図5 パンテオン

図6 パノプティコン

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図6 パノプティコン


上記のように象徴的な意味作用を持つ「円」が、科学至上主義へ世界観の転換がおこった近代において新しい芸術をつくりだした。機械技術の発展によりもたらされたモーターを回転装置として使った作品、ナウム・ガボの「Kinetic Construction」(図7)である。動く芸術(キネティックアート)の始まりとされるこの作品は、具象的な題名である「Standing Wave」とも呼ばれたが基本的に抽象芸術と考えられる。一方、ほぼ同時期にマルセル・デュシャンの「円」を主題とした作品、「Rotorelif(光学円盤)」(図8)がある。そのシリーズ作品の中で、緑の地に複数の白い円と赤い金魚が配置された「POISSON JAPONAIS(日本の魚)」(図9)は意義深い。それは、前近代の図像としての「円」が不可避に権力としての意味を持つことに対して、まるで祭りの縁日で掬い上げた一匹の金魚が、円いアルマイト製の容器の中を無邪気に泳ぐ様を想像させる。そこには、神も一望監視も存在せず、芸術を創造する思考過程における「日常の中での発見」や「気づき」がある。

図7 Kinetic Construction

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図7 Kinetic Construction

図8 Rotorelif

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図8 Rotorelif

図9 POISSON JAPONAIS

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図9 POISSON JAPONAIS


「円」のことを考察する日常のなかで、ある店の天井で回転しながら飛ぶウルトラマンを発見した。CiC1は、青と赤、異なる2色のカラータイマーを持つ2体のウルトラマンによって構成されている。1体は飛ばずに「点」となり、他方は回転運動をともないながら飛び「円」を描く。それは、幾何学の始原であるユークリッドの定義を表現したものである。また、この作品におけるウルトラマンは、デュシャンにとっての金魚と同様の意味を持つと考えた。(図10,11)

図10

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図10

図11

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図11


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2「円相」について

神戸芸術工科大学では芸術工学の新たな世界観を展開する試みとして1994年から1995年にかけて10人の多士による「円相」を主題とした特別講義が行われた。そこでは、「数学」、「物理学」、また「精神医学」や「文化人類学」など多くの視点が示された。また、「円」から「フラクタル」、「カオス」、「太極図」、「曼荼羅」にいたるまで、図像の多様な展開を見ることができた。10回にわたる講義の内容は、『円相の芸術工学』として書籍化されている。そのなかで杉浦康平は「円相」について定義し、その第1項目で次のように記している。

「「円」と「球」、ともに「まろやか」なる形である。点から円へ、そして球へ。ダイナミックに「膨張」し「収斂」する形。そして「おぼろげ」にひろがる形…。この世界には、円と球に由来するものが無数にあり、さまざまな現象、物や道具に変化して空間を埋めている。人間はそれに包まれ、また自らの内部にもまろやかなるもの、つまり魂を宿らせて生きている。」*3

この定義の重要性は、「円」を工学分野の規則性から芸術分野の想像性へ向かって解き放とうとしていることにある。幾何学的完結性を持った「円」が味覚や視覚といった五感に解放されるべく「まろやか」、「おぼろげ」といった言葉が注意深く選ばれている。それは、芸術家が積極的に工学を他者として受け入れ、その特性を理解した上で作品をつくりだすことを意味する。

CiC2において、「円」は熱風車の羽根である。ジャムの空き瓶の中に小さな蝋燭を入れ、針金を曲げてつくった凸型の支点の上に、中心を凹ませたアルミ製の羽根を乗せている。それは、蝋燭の火が生み出す上昇気流に対して、重力によってのみ支えられる軽量の羽根の微妙なバランスによって成立している。眼には見えない重力と気流が対峙する空間のなかで、羽根を回転させながら均衡を保つカオス的な様相をつくりだした。(図12)それは、羽根の形が「円」であることをこえて「円相」を主題とした作品として構想された。

図12 CiC2.mov

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図12 CiC2.mov(Link)

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3「円相の構成」について

構成とは、2以上の要素を組み合わせること、その構造である。「円相の構成」とは、基本形の「円」と「円相」にみられる様々な図像を組み合わせてつくりだされる芸術である。

近代における優れた「円相の構成」は、バウハウスのオスカー・シュレンマーによるダンスの舞踏譜(図13)に見いだすことができる。球や円錐といった幾何学形態のコスチューム(図14)をまとったダンサーが円形や渦巻き状の回転運動をする作品である。

図13 diagram for the"Dance of Gestures"

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図13 diagram for the"Dance of Gestures"

図14 Dance Costume

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図14 Dance Costume


「円相の構成」をさらに展開するためにCiSt(図15,16,17,18,19,20)では、既製品の自動掃除ロボットを使うことを試みた。部屋の隅々まで掃除をするためにプログラムされたロボットの動きの軌跡が絵画となる。障害物をセンサーで感知しながら円運動を繰り返すロボットに、人が気まぐれに接触することによって、あらかじめプログラムされた動きをその都度修正することになる。画家が手で描くことも、またロボットの動きを制御するプログラミングも放棄したこの作品の意義は、機械の時代と電子の時代を経た現在において、その両方の恩恵を受けながら、そこに人の行為を関与させることにある。人間が考え抜いてつくりあげた機械に、再び人間がノイズを与えることによって新たな「円相の構成」をつくりだすことを目指した。

図15 CiSt.mov

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図15 CiSt.mov(Link)

図16 CiSt図面

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図16 CiSt図面

図17 CiSt構成図

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図17 CiSt構成図



図18 CiSt_Painting_1

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図18 CiSt_Painting_1

図19 CiSt_Painting_2

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図19 CiSt_Painting_2

図20 CiSt_Painting_3

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図20 CiSt_Painting_3


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まとめ

本稿では、芸術における「円」、「円相」、「円相の構成」の歴史と、現代アートにおける可能性について考察した。それは、地面に「円」を描いて石を並べた古代に始まり、工学技術の発展とともにその世界を拡張してきた。今後もその可能性を探究することに意義があると考えている。


注・引用文献

*1―
会期2009年10月3日(土)〜11月23日(月)。神戸市の中心部港湾地域にあるメリケンパークを会場に、輸送用ドライコンテナを展示空間として現代アートから伝統芸術、伝統文化、デザインなど、多様な芸術文化を発信する美術展。http://www.kobe-biennale.jp/index.php (最終アクセス:2009年12月18日)
*2―
第13回「光のメタファー展」2007年12月27日(木)、及び第14回同展2008年12月19日(金)。夙川学院短期大学美術デザイン学科主催で同大学キャンパス全域を展示会場とし、毎年冬至日の夜午後5時から8時まで開催される光をテーマにした美術展。
*3―
吉武泰水監修 杉浦康平編 [円相の芸術工学] 工作社 1995年 p.285
 

図版出典:
図1,2,3)筆者撮影
図4)日本建築学会編 [西洋建築史図集 三訂版] 彰国社 1981年 p.22
図5)同上書 p.20
図6)八束はじめ [空間思考] 弘文堂 1986年 p.123
図7)Steven A.Nash and Jorn Merkert [Naum Gabo Sixty Years of Constructivism] Prestel-Verlag,1985, p.205
図8)岩佐鉄男、南條史生監修 [Marcel Duchamp Graphics マルセル・デュシャン 紙の上の仕事] 京都書院 1991年 p.45
図9)国立国際美術館編集 [マルセル・デュシャンと20世紀美術] 朝日新聞社 2004年 p.83
図10,11,12)筆者撮影
図13)H.M.Wingler [The Bauhaus] The MIT Press 1983 p.472
図14)Bauhaus-Archivs [FOTOGRAFIE AM BAUHAUS] Dirk Nishen 1990 p.238
図15)CiSt 筆者撮影
図16,17)CiSt図面、CiSt構成図 筆者作図
図18,19,20)CiSt 筆者撮影

    

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会期2009年10月3日(土)〜11月23日(月)。神戸市の中心部港湾地域にあるメリケンパークを会場に、輸送用ドライコンテナを展示空間として現代アートから伝統芸術、伝統文化、デザインなど、多様な芸術文化を発信する美術展。http://www.kobe-biennale.jp/index.php (最終アクセス:2009年12月18日)
第13回「光のメタファー展」2007年12月27日(木)、及び第14回同展2008年12月19日(金)。夙川学院短期大学美術デザイン学科主催で同大学キャンパス全域を展示会場とし、毎年冬至日の夜午後5時から8時まで開催される光をテーマにした美術展。
吉武泰水監修 杉浦康平編 [円相の芸術工学] 工作社 1995年 p.285