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5 「英語(語学)以前の問題」について

最後に、筆者が1章で学生にも強調した「英語(語学)以前の問題」について、インプット・アウトプットの両面から実例を交えて述べておきたい。

5−1 インプットの問題:筆者が「訳読」を重視する理由

まずインプット、すなわち、与えられた情報・意見の、その内容や文脈を正しく理解し自分のものとすることについては、筆者が本学での授業においてもいわゆる「文法訳読式授業」にこだわっている理由とも密接に関連する。

2002年に「「英語が使える日本人」の育成のための戦略構想」(*29)が策定されて以来、日本の英語教育はコミュニケーション重視、ないし偏重が暴走し、文法訳読式授業は時に「訳毒」とまで害悪視されている。今回の学生アンケートの結果にもその影響は表れており「文法をやったりテキストを読んだりではなく会話をやってほしい」という類のコメントは多数見られた。

上記戦略構想への批判は本稿の論点ではなく字数の制約もあるので差し控えるが(*30) 、筆者はこの流れに与さない立場(*31)であり、それは学生のインプット能力を鍛え続ける必要を痛感するからである。

筆者は学生に英文を読ませ訳させるにあたり、学生が立ち往生したり見当違いな訳になったりしたときには「そのitは何の話」「そのtheyは誰のこと」等と聞いてみることが多い。「代名詞は論理の流れを追う鍵」(*32)であり、読んで理解できないものを聞き取れるはずもないので、「毎回のように当てる」授業スタイルは(教員評価にも利用される)授業アンケートでも「辛口」の評価になりがちなのを承知の上で続けている。

この過程で、時に文章の前段で語られた内容と明らかに矛盾する訳が出てくることがあり、学生は「それではさっきの話とつながらないだろう」と筆者に指摘されて首をかしげることがある。これは辞書を引いて用意しているかどうかではなく、話の文脈が正しく読みとれているかどうかの問題で、その意味で「英語以前」または「別次元」の問題である。

訓練としては、要するに少しでも多くの文章を読む他はないであろう。筆者が「英字新聞を読みたければまず日本語の新聞を読め」と力説する背景にはこのような事情もある。

5−2 アウトプットの問題:SIFE Japan 2009国内大会への「みっくすさいだー」参加の事例から

次にアウトプット、持っている情報や意見を、いかに説得力を持って相手に伝えるかの問題については、SIFE Japan 2009国内大会に参加した「みっくすさいだー」の事例紹介を持って説明としたい。

5−2−1 SIFE Japan 国内大会について

SIFE (Students in Free Enterprise)は、1973年にアメリカのウォルマート(Wal-Mart)が社会貢献活動として始めたNPOである。次世代のビジネスリーダー育成を目的とし、47カ国1500校以上から参加する大学生が、自ら企画した社会起業プロジェクトの成果を審査基準(*33)に基づき競うもので、日本では2005年から国内大会が開かれている(*34)。

2009年度は本学から「デザイナーと学生、さらに知的障害をもつ青年が互いに協力し合い」、「単に利益を追求するだけのデザインブランドではなく、デザイン教育や障害者自立支援の問題と向き合」った活動を行ってきた「みっくすさいだー」(*35)が参加することとなったが、プレゼンテーションは英語で行われるため、筆者も指導に協力した。

5−2−2 本学「みっくすさいだー」チームの成果

国内大会は2009年7月3日から4日に開催、下記15大学による予選4リーグから、下線を付した大学が決勝に進んだ。

<リーグ1> 神戸芸術工科大学・高千穂大学・滋賀県立大学(準優勝・ルーキー賞)・慶應義塾大学

<リーグ2> 早稲田大学・同志社大学 ・大阪商業大学・九州大学

<リーグ3> 会津大学・広島修道大学・関西学院大学(優勝)・立教大学

<リーグ4> 京都大学・広島市立大学・和洋女子大学

本学「みっくすさいだー」は、リーグ1において、最終的に準優勝となる滋賀県大「廃棄物バスターズ (Waste Busters)」による「“産官学"連携による滋賀県の廃棄プラスチックリサイクルビジネス」に続く2位と、決勝進出はならなかったが、審査終了後に審査委員長と事務局長から「本当に僅差だったので、来年も必ず参加してもらいたい」と異例の激励をいただくなど、ビジネスモデルとしては審査委員の間でも高い評価を勝ち取った。質疑応答もかみ合っており英語プレゼンテーションの趣旨も十分に審査委員に伝わったと言え、商品のデザインについても審査委員から販売希望が出るほど好評で、その評価は決して決勝戦進出校に劣るものではなかった

5−2−3 SIFE参加経験から得られたアウトプットの課題

大会後に指導教員(柊・岡村)間で意見を交換し、また反省会等で参加学生とも議論したが、上記の経緯もあり、筆者は「みっくすさいだー」のビジネスモデルが劣っているわけでは決してないこと、またプレゼンテーションの英語が不出来であったというわけでもないことを強調した上で、課題があるとすればプレゼンテーションの「見せ方・聞かせ方」であったろうと指摘した。

準備段階では学生の間にプレゼンテーションで「派手にアピール」することにデザイナーとしての美意識との葛藤も見られたが、決勝に進出した他大学の発表を目の当たりにした後では、「もし『みっくすさいだー』が他大学に負けているところがあったとすれば、それは『みっくすさいだー』を見たことも聞いたこともない、もっと言えばアートにも興味がない人たちでも振り向かせずにおかない、そんな気迫と『プレゼン力』だ」との筆者の指摘に多くの学生が首肯した。決勝の場でもっとたくさんの人たちに「みっくすさいだー」の活動について聞いてもらいたい、と再戦を目指す者もあった。

出張報告を受けた他の教員から、学生の日常の活動、デザイナーとしての能力とは別に、言葉でのアピール力に物足りなさを感じることがあり、就職活動時にも面接段階までたどり着きながら採用を逃す事例が多いことも「問題の根幹は共通していると思う」とのコメントが寄せられ、筆者も「英語(語学)以前のコミュニケーション能力の鍛練」の必要を再認識させられた。センター教員各位への報告で所見を述べると共に、自らの授業や、講評役として招かれたファッションデザイン学科の「企画・情報演習」などでも、その重要性を強調している。


 

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http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/020/sesaku/020702.htm
「戦略構想」への批判については以下を参照:大津由紀雄編著『危機に立つ日本の英語教育』慶応義塾大学出版会、2009年
参照:斎藤兆史「英語能力試験依存症、母語話者至上主義、そして訳読について」『英語教育』58巻5号、2009年、p.41.
行方昭夫『英文の読み方』岩波書店(岩波新書)、2007年、p.92.
(1)市場経済の理解、(2)市場経済で成功するためのスキルの獲得、(3)起業家精神、(4)個人的財務能力の向上、(5)持続可能な環境への配慮、(6)ビジネス倫理、(7)チームの持続可能性。
SIFE日本事務局公式ページ: http://www.sife.jp/ / SIFE International: http://www.sife.org/
http://www.mixsider.com/ 「みっくすさいだー」並びにプロジェクトの詳細については以下を参照。見寺貞子、柊伸江、畠健太郎「「イーブン・アート・プロジェクト」によるデザインへの実践教育に関する研究−ユニバーサルを視点としたモノ・コトづくり−」『芸術工学(神戸芸術工科大学紀要)』2006 http://kiyou.kobe-du.ac.jp/06/report/09-01.html