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5.共創型芸術の課題

5−1 変化の行方

前章で述べたとおり、共創型芸術は芸術と地域を大きく変容していく可能性を持つ芸術表現であるが、共創型芸術の発展を目指す以上、こうした可能性に対してそれぞれ課題を把握し、対応していかねばならない。つまり共創型芸術によって変容していく芸術や地域の行方を考察する必要がある。「新たな芸術創造」の可能性に対しては、芸術表現の変化がどうなっていくのか、変化はどのような問題を孕んでいるのかを考えねばならない。同様に「新たな地域づくり」は芸術家や地域社会にどのような影響を与えるだろうか。「新たな文化創造」がもたらすであろう芸術家の社会的役割の変化の行方も重要な問題である。

5−2 芸術表現の変化

共創型芸術の発展によって芸術表現はどのように変化していくだろうか。すでに懸念されているのは、専門家によるより高度な芸術表現を目指す傾向と、一般の人々と積極的に連携をとっていこうとする傾向に大きく分かれようとしているのではないかということである。パブリックアートの研究者である竹田直樹はこうした状況を以下のように指摘している。

「これらの中には、地域住民との交流を重視する傾向が強く見られるものがあり、このことがアートにおける大衆性の優先につながるケースがこのところ目につくようになっている。アートプロジェクトの『文化祭化』が指摘されることもある。アートプロジェクトが『まちづくり』や『コミュニティー再生』の道具になり始めており、それにともなう作品の水準の低下が憂慮され始めている。アートプロジェクトは、最先端のアートの開拓を目指すものと、『まちづくり』を目的とし大衆的な方向に向かうものに、大きくふたつに分化しつつあるようにも見える。」(*14)

高度な芸術表現を目指す傾向が専門家による専門的な芸術表現に回帰してしまうとしたら残念といわざるを得ない。しかし一方で、竹田の指摘にあるように、一般の人々との連携は芸術表現としての複雑さや難解さを失うことにつながる心配もある。専門的知識や経験のない多様な参加者を前提とするなかで、芸術家自身が活動や表現を限定してしまい、芸術創造の可能性や広がりを自ら狭めていってしまうのではないかと懸念されているのである。これは今後ますます地域との連携が進んでいく可能性があるだけに注目していかなければならないポイントである。

5−3 芸術家の社会的役割

共創型芸術の課題はその特性である社会政策との連携にある。今後、芸術家は社会政策上の課題にどのように向き合おうとするのかが問題となってくるだろう。芸術家は自らの内発的表現欲求にもとづいて作品を制作する。共創型芸術においてもその基本構造は変わらない。違うのは一般の人々と共に制作を行うことを前提にしている点である。その結果としてまちづくりや環境教育といった社会政策上の効果が発生するのである。行政や各種NPOなどがそうした政策効果に注目し、それぞれの主催する事業にアートプロジェクトやアートワークショップを積極的に取り入れるようになっている。この状況は芸術家と主催者がお互いに異なる思惑を持ちながら共生している状態であるといえる。芸術家の目的と事業主催者のそれのずれについて、芸術家は自覚的でなければならないのである。

これからの共創型芸術を展開する芸術家の役割がどうなっていくのかは重要な課題である。専門家としてリーダーシップと創造性を発揮しつつ、地域の文化創造に主体的に関わっていく芸術家のあり方は、地域社会において新しい芸術家像を形成していくことになるだろう。その時、芸術家は政治家や企業家などとは異なる新しい社会活動家となっていくのではないだろうか。そうしたこれからの時代の芸術家像を具体的に考え、実践していくことも共創型芸術の重要な課題であると思われる。

    

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竹田直樹「地域とアートのコラボレーション −環境芸術研究のための資料として」『地域とアートのコラボレーション 事例研究』環境芸術学会第8回実行委員会編、環境芸術学会、2007年、17頁