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2 「新図書館ラボ」-神戸芸術工科大学の教育支援-

この章では、2008年12月に開設された神戸芸術工科大学の情報サイト「新図書館ラボ」の運営目的および構成を概観し、それによってもたらされた成果について分析考察する*16。前章で確認した情報発信形態に準じれば、2-1ウェブサイトの一事例であり、前章との比較を念頭に置きつつ論を進めたい。

2−1 経緯と目的

神戸芸術工科大学においても図書館の機能拡充は課題とされており、2008年度から図書館に研究員を配置するとともに、新図書館構想ワーキングが組織された。当該年度の大学の取り組みに言及した谷岡学園の広報誌『楽人』第32号では、コンピュータラボラトリーの環境整備とともに図書館改革が指摘されている。それによると、「デザインやアートの情報を世界から収集・分析し、発信できる新しい図書館情報機能(仮称・インテリジェンスコア)の検討」を行うと記され、クリエイティブセンターの完成による大学院・研究所改革、大学間共同研究、地域連携と社会貢献と共に、図書館改革が神戸芸術工科大学の発展の方向性を指し示す重要な位置づけに置かれている*17。専門図書館である大学図書館はその大学が設置している各学部学科が必要とする情報を提供する。であるならば、神戸芸術工科大学において図書館の改革は、アートとデザインに関する教育研究支援体制の更なる充実とほぼ同義となろう。これまで通り、図書館が学生の教育支援の根幹を成すことに変わりないが、既存の図書資料中心のサービス形態とは別の新しい情報支援サービスを確立する必要があった。2008年度上半期は、各大学図書館および大学のホームページ、デジタル・アーカイブを調査し、先駆的な事例がみられた図書館へのヒアリングを実施し現状の把握に務めた。
 まずは「プレスリリース」として掲載された記事から、同サイトのミッションを確認しよう。それによると1)ウェブ上にある情報を本学学生にいち早く届けること、2)デザイン、制作に必要な情報を集める検索スキルを高めること、3)「新しい時代の図書館に必要なサービスはなにか」を考える実験の場となることの3つが挙げられている*18。つまり、学生の学びを支援するためのアートとデザインの関連情報の収集と提供、情報検索に関する自学自習を可能にする情報、それらについての研究開発、の3つの方向性をもつベクトルをおいたサイト構成である。運用にあたっては、1)更新日は、祝日を除いた月曜日から金曜日のウィークデイとすること、2)更新頻度は1日4コンテンツを最低更新回数とすること、を基本とし、コンテンツの収集方針、3)各学科の学生がデザイン、制作する上で必要と思われる内容およびデザイン業界の動向を把握できるような内容、図書館のResearch & Development(研究開発)に必要な各内容を集めること、を掲げ、大学ホームページにて所信表明を行った。ここに表れているように、本ポータルサイトは、学生と教員双方に対する新たな教育研究支援事業として、本やDVDに限らず、個々のウェブサイトにあるような非パッケージ型の情報についても情報の整理とレファレンス的な活動を行うように計画されている。少子化による大学全入時代に突入し、大学としての競争力が問われる昨今、大学図書館の地域貢献も無視できない課題となっていることは前章の事例の中に確認できたが、本ポータルサイトはあくまでも学内へのサービスを第一義と位置づけている点に注意が必要である。不特定多数に公開されるウェブサイトという発信形態により、コンテンツが広くアートやデザインに関心を有する層に対して「プレゼンス(影響力)」を有することは目標ではあるが、それは学生への情報提供への結果であることが重要であった。

以上が、神戸芸術工科大学におけるポータルサイト設置の経緯およびミッションと運営方針である。サイトは、2008年12月12日に公開に至り、現在、一ヶ月あたり約9000人のユーザー数を数える。

2−2 構成

前項において確認したミッションに基づき、サイトの基本構成は下記の通りとなった。

1)アート&デザイン情報

ここでは、神戸芸術工科大学の各学科に対応する展覧会の情報を中心に、他の芸術系大学で行われるアートないしデザインに関する講演会や公開講座、特別講義等の情報を収集し掲載している。またデザインに関するイベントやアートプロジェクト等、神戸芸術工科大学の学生や教員に有益と思われる情報についても目を配っている。

2)ウェブ検索術

この項目は簡潔にいえば、学生にとって役に立つと考えられたアーカイブへのリンク集であり、主に2つのコンテンツから成り立っている。全7回とした「ウェブ検索術」のシリーズではデザイナー、クリエイターにとっての情報検索のスキルアップを目的に画像検索の方法はじめ基本となる情報の検索方法、利用方法について広く情報収集という行為に対する提案を行っている。「ウェブ検索術」以外には、各機関・団体が公開しているデジタル・アーカイブの解題と利用方法があり、他の大学図書館ホームページにおける「パスファインダー」に近い活動が行われている。

3)ラボラトリー

この項目は主に図書館に関連する事例紹介、そして新しい時代の図書館研究会の活動プラットフォームとしての機能を与えられている*19。特に前章で概観したような他大学の情報発信についての各事例はここで紹介されることが多い。それらの掲載目的はアートとデザインを教える大学の新図書館に必要なサービスはなにか、を他の機関の事例から学ぶことと、日々のウェブサイト運営の過程で入手した情報の中から本サイトを閲覧する他の図書館員にとって有益と思われる内容を紹介することである。また、この項目では、デザイン教育センター開講の講義「デザイン文献学」の課題と連動したコンテンツも掲載されている。「神戸芸術工科大学の学生がオススメする本」「神戸芸術工科大学の学生が考える、<図書館のあったらいいな>」は、学生の生の意見を本サイトの想定ユーザーである図書館員に届ける、という意味で重要な内容であろう。

4)カフェ

この項目では、当初YouTubeに投稿された動画等の紹介など上記3つのカテゴリーに該当しない、比較的自由な記事を扱う場所として計画されていたが、大学ホームページに情報を蓄積する場所が用意されていなかったという理由もあり、現在は神戸芸術工科大学の教員や学生が主体的に行う展覧会やイベント等の情報掲載が中心となっている。また特集記事の配信にもこちらの項目が利用されている。例えば、神戸芸術工科大学の卒展に関する特集記事や2009年4月末にイタリアで開催された国際見本市ミラノサローネ2009に関する情報をまとめた「ミラノサローネ2009」などは、本来は「アート&デザイン情報」の項目に入るべきものであるが、ある程度まとまった情報量を扱う場合などは別途こちらに掲載している。

2−3 情報プラットフォームとしての役割

上記4つの固定化されたカテゴリーの他、「新図書館ラボ」では他のアーカイブに対する情報プラットフォームとして、AmazonやYouTubeといった他のウェブサービスとの連携も試みられている。正確には外部に構築されたアーカイブについての言及となるため、前項とは別記する。

Amazonとの連携では、主にAmazon内に独自の書籍リストを作成できる「リストマニア」のサービスを利用している。現在、神戸芸術工科大学が出版した書籍をリスト化した「神戸芸術工科大学の本」、語学等教養に関する開講科目を除き、シラバスに教科書ないし参考図書として記載されている書籍を各学科別にリスト化した「神戸芸術工科大学シラバス掲載図書リスト2009年度」のシリーズなどがその例である。もちろんAmazon.jp内で取り扱われている書籍に限られるという制約はあるが、OPACと異なり書影が入手できる点で優れている。

もう一つの構築先であるYouTubeでは、YouTubeに投稿されたアートとデザインの関連動画のYouTube上に作成したチャンネル「KOBEDESIGNUNIVERSITY」への表示を試験中である。未だ明確なアプローチをもって使用しているとは言い難い現状であるが、ここでの狙いは「新図書館ラボ」に個別の動画の貼り付けを行うのではなく、ウェブ上の動画をブックマークし、より多くの動画を閲覧できる環境を安価に整えようとするところにある。

AmazonやYouTubeへのアーカイブ構築の狙いは、アーカイブを分散して構築することによる所在の適正化にある。例えば、書籍の紹介は「新図書館ラボ」のサイト内においても可能であるが、一日あたりに本サイトを利用するユーザー数はAmazonのそれと比べるべくもない。Amazon の「リストマニア」を利用して書籍リストを作成することで、「新図書館ラボ」の名称がAmazon内に表示されることになる。Amazonのユーザーがリスト掲載図書の関連書籍を検索した場合、このリストマニアが表示されるため、ウェブ上のプレゼンスは既存の掲載方法よりも増大すると推察される。また、Amazonの「リストマニア」、YouTubeのチャンネルはいずれも検索エンジンにクロールされるため、情報が閲覧され易くなるという利点がある。ただし、現状において成果を測定できる確かなデータがないため、この点において正確な分析はできないが、リストマニアで紹介した書籍の売り上げ実績が数件あることを付け加えておきたい。

2−4 トラフィック

続いて、本サイトにおけるトラフィックを分析する。表1は開設から7月11日までの7ヶ月の数値であり、解析にはGoogle Analyticsを使用した。

  ノーリファラー 参照サイト 検索エンジン 全 体
セッション数 2,338 5,892 35,393 43,604
全体に占める割合 5.36% 13.51% 81.17%
ユニークユーザー 34,225
ページビュー 10,667
平均サイト滞在時間 3分43秒 2分57秒 1分35秒 1分53秒
直帰率 56.42% 56.06% 69.55% 67.02%
平均ページビュー 3.79PV 3.64PV 2.19PV 2.47PV
新規セッション率 58.21% 50.20% 84.58% 78.48%
【表1】「新図書館ラボ」のトラフィック値(2008年12月12日〜7月11日)

「ノーリファラー」とはサイトURLを直接指定したユーザー、「参照サイト」は別のリンク先から本サイトを訪れるユーザーを指し、「検索エンジン」はGoogle検索等による来訪者である。検索エンジンの使用によって本サイトにたどり着くというユーザーが約8割を占める。検索語句の上位(表2)と合わせて分析すると、彼らは検索エンジンの結果によって来訪し、展覧会の紹介ページに1、2ページアクセスしてサイトから出て行くという傾向が見いだせる。したがって、本サイトの展覧会紹介記事が検索エンジンの検索結果の上位に位置しているが、それを基点にサイトの別コンテンツへと誘導するには至っていないことが明らかとなる。対して、「新図書館ラボ」「神戸芸術工科大学図書館」などの検索語句は、平均ページビュー数、平均サイト滞在時間ともに高い数値を示している。表1の数値と合わせると、これらの検索語句によるサイト訪問者はノーリファラーや参照サイトユーザーとして本サイトの存在を予め認知しているユーザーであると推察される。

キーワード 平均ページビュー 平均サイト滞在時間(分)
新図書館ラボ 11.61PV 0:14:26
ミラノサローネ2009 8.83PV 0:12:22
tokyo's tokyo 2.91PV 0:01:56
新国立美術館 ルーブル 1.51PV 0:00:36
ルーブル美術館展 1.51PV 0:00:56
神戸芸術工科大学図書館 12.31PV 0:16:10
ルーブル美術館展 国立新美術館 1.41PV 0:00:29
国立新美術館 ルーブル 1.56PV 0:00:50
だまし絵 名古屋 1.46PV 0:00:22
だまし絵 bunkamura 1.3PV 0:00:33
【表2】「新図書館ラボ」の検索語句上位10(2008年12月12日〜7月11日)

以上みてきたように、「新図書館ラボ」は、利用者にとって、アートとデザインに関する情報収集および情報の検索方法、デザインを教える大学図書館としての研究開発、イベント情報等のアーカイブ事業を日々行っているポータルサイトである。情報サイトとしての「新図書館ラボ」の開設は、結果として、極めて目に見えやすい形での情報提供と提供した情報の蓄積をもたらした。ユーザー数において着実な成長を遂げており、図書館を核とした新しい教育研究活動と情報発信のあり方についての調査研究の場として着実に機能してきている。しかしながら、その利用に関してはページビュー数等の課題も多いことも数値によって示された。

    

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http://shintoshokanlab.kobe-du.ac.jp/(最終アクセス日:2009年7月25日)
『楽人』第32号(谷岡学園法人学部総務課、2008年)、4頁。
http://www.kobe-du.ac.jp/details.php?i=1806&u=%2Findex.html(最終アクセス日:2009年7月25日)
同研究会は新図書館構想ワーキングが立ち上げたもう一つの実践事例であるが、紙幅の関係もあり後稿を俟ちたい。