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図37 研究構成図(作成:齊木崇人、木下怜子,2008)

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図37 研究構成図
(作成:齊木崇人、木下怜子,2008)

5.「自律圏ネットワークとしてみた瀬戸内海域の固有価値を生かした居住環境の形成原理」へ

5−1 瀬戸内沿海文化を育んだ環境と住民の「自律」に注目する

これまでの研究成果として、陸域からの視点による開発に対して、現地調査で瀬戸内沿海景観を海からの眼差しで把握・評価したことにより、シーボルトら外国人の賞賛を得られた、かつての瀬戸内沿海域の有機的な生活環境は、海との密接な関係によって培われていたことを明らかとした。

また、現地調査の過程で、瀬戸内海には、1)持続的居住のための協働のコミュニティの仕組、2)森を保護した上での、均等配分や割替による平等な山の利用や、山海を一体とした固有な土地・海域利用の仕組、3)風土に合った有機的な集落と建造物の形態、4)航海に魅力を持たせ、江戸期から現在まで人々に評価され続けてきた瀬戸内海固有のシークエンス体験や風景・空間、5)信仰や営みに基づく祭やコミュニティと海の路を介したそれらのネットワーク、の5項目から成る固有価値が、現在も生き続けていることを確認した。このような居住環境は、住民が、限られた環境を絶やさず、互いに譲歩しつつ共に利用する市井によって形成されてきた。

以上から、瀬戸内海は、環境と住民の「自律」に裏付けられた固有価値を生かした居住環境と、それらを有機的に繋ぐネットワークが存在し、それによって半ば自立的な圏域を形成し、近代化に取り残されはしたが結果的に生き続け、現在まで人々に評価され利用され続けてきたことに繋がるのではないか、と仮説した。

そこで、次なる目標として、自律圏ネットワークと仮説した瀬戸内海域の固有価値を生かした居住環境の形成原理の考究を掲げ、1)持続的居住環境、2)土地・海域利用、3)歴史的まちなみ、4)風景・空間、5)祭とコミュニティ、に着目し、その実態把握と先人達の追体験を通して、瀬戸内海域がどのように自律しネットワークを構造化しているかを導き出すことを目的とした(図37)。また、究極の目的として、瀬戸内海の固有価値を生かした、地域の有機的な連携とコミュニティの再生を目指し、明治維新・高度経済成長期を経て疲弊し続けている、瀬戸内海諸地域の活性化への方途を提言していきたい。(「自律圏ネットワークとしてみた瀬戸内海域の固有価値を生かした居住環境の形成原理」平成21年度科学研究費補助金・挑戦的萌芽研究・研究代表者:齊木崇人)

5−2 研究の到達目標

本研究では、1)持続的居住環境、2)土地・海域利用、3)歴史的まちなみ、4)風景・空間、5)祭とネットワーク、の5項目について、それぞれ次の到達目標を掲げて研究を行う。


1)持続的居住環境

限られた環境の中での営みを今日まで持続してきた背景にある、協働のコミュニティの仕組みについて、現地調査による現状把握と再評価を行う。現在すでに失われているコミュニティの仕組みについても、住民へのヒアリングや、宮本常一、地井昭夫らの研究文献等から把握し、分析・再評価を行う。


2)土地・海域利用

瀬戸内海の環境を使いこなした土地・海域利用について、現地調査による現状把握を行い、また、シーボルト(江戸・鎖国期)や宮本常一(戦後・高度経済成長期)らの記録との比較を通して再評価を行う。さらに、現在未利用地となっている土地も含めた環境利用の再生について提案する。


3)歴史的まちなみ

現在、鞆の浦や下津井、御手洗、笠島集落などでは、その歴史的空間の価値が評価され、まちなみ整備がなされている。しかしこれら以外にも、瀬戸内海各地には、古い港町や集落が数多く残っており、それらは風土に合った有機的で美しいまちなみ空間を保持している。現代、そして未来の住宅やまちなみを提案するにあたり、このようなまちなみの再価値化を行う必要があると考える。


4)風景・空間

シーボルトやリヒトホーフェンらの記録にもあるように、かつて行われていた、船舶を利用した瀬戸内海航海のシークエンス体験や、シーボルトや宮本常一らの歴史的経験の追体験などを通して、陸域からではなく、海域からの眼差しで風景や空間を捉える手法の再評価を行う。


5)祭とコミュニティ

瀬戸内海はアジア各国や日本各地の文化の交流地であった。ここでは、新居浜や豊浜、観音寺、高砂、など瀬戸内沿岸各地に残る太鼓台の文化を通じて瀬戸内海固有のコミュニティとそのネットワークを引き出し、そこから新しい文化や芸術のネットワークプログラムを生み出す。

さらに、以上5項目の関係性から、瀬戸内海域がどのように自律しネットワークを構造化しているかを導き出すことを本研究の究極の到達目標としている。


 

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