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3.結果と考察

外側広筋・大腿直筋の4部位におけるdeoxy-[Hb+Mb]の絶対値を連続的に測定した結果、振幅値に測定部位の違いによる不均一性が認められた(図2)。とくに、遠位側の外側広筋におけるdeoxy-[Hb+Mb]のベースラインからの増加振幅[19.2 マイクロモル(uM)]は他の部位のそれよりも大きくなった(1%有意水準)。deoxy-[Hb+Mb]の応答の速さ(遅れ時間、時定数)については部位の間で有意な差は見られなかった。連続波法NIRS装置を用いた著者らの先行研究では、活動筋微小循環のdeoxy-[Hb+Mb]には空間的な不均一性が見られ、筋の部位によって酸素不足と動員される筋線維タイプが異なることが示唆された*2, *3。しかし、deoxy-[Hb+Mb]の絶対値測定が不可能であったため、個体間や部位間の酸素代謝の正確な情報を得ることは出来なかった。今回の研究では、deoxy-[Hb+Mb]増加量(振幅)の空間的不均一性の定量化が可能になった。

deoxy-[Hb+Mb]の値は筋肉の酸素消費と酸素供給の比率を反映するので、遠位側の外側広筋では酸素供給が需要に追いつかず、酸素の取り込みが遅れたと考えられる。また、deoxy-[Hb+Mb]の時間的変化の計測によって、鏡像関係にある筋肉微小循環の酸素分圧(PO2)の動的応答を推測する試みがある。動物実験によれば、持久性に優れる遅筋線維では酸素の需要に対して酸素供給が見合って、酸素分圧は低下しにくい。一方、疲労しやすい速筋線維では酸素の供給が不足し、PO2がより減少して筋細胞への酸素の取り込みが遅れる*9。今回、遠位側外側広筋においてはdeoxy-[Hb+Mb]の振幅が他部位のそれよりも有意に大きくなったので、疲労しやすい速筋線維が使われた結果、PO2がより減少したことが示唆される。

筋線維の動員パターンが明らかになれば、筋肉のストレス・負担度や疲労の判定(例、使いやすい道具のデザイン)、あるいは運動トレーニングによる筋肉持久能力の改善効果(遅筋線維の動員増加、筋内PO2レベルの維持)を定量できる。低体力者、心肺疾患、糖尿病や骨折などで入院した患者の運動リハビリテーションに貢献することが期待される。筋線維組成を測定するバイオプシ−法や酸素の需要と供給の状態を計測する陽電子放射断層撮影法(PET)は、侵襲的でかつ連続測定ができない。また、磁気共鳴スペクトル法で筋内のpHを測り、動員される筋線維を推定する試みがあるが、pH値が筋線維の違いを反映しない場合もある。さらに、動的筋収縮条件に適用される表面誘導筋電図の周波数解析法については、議論が多い。そこで、時間・空間分解能に優れたNIRS装置(多チャンネルの時間分解装置)を用いて、非侵襲的に筋線維の動員パターン(動的な応答特性)を推定することは本研究の特色といえよう。

活動筋におけるVO2と微小循環レベルの動脈−静脈間の酸素量差から、毛細血管レベルのQcapを推定した結果を図3に示した。活動筋毛細血管レベルのQcapは運動の開始直後から急激に増加するが、その応答時定数(定常状態の値に達するまでの速度)は部位によって異なった。図3では、遠位側大腿直筋のQcapの時定数はVO2の時定数と同じであるが、遠位側外側広筋のQcapはVO2の時定数よりも遅くなった。活動筋末梢血管レベルの血流量、つまり酸素供給の応答速度は筋肉の部位によって異なること(空間的な不均一性)が認められた。今回の測定法に関する問題点としては、活動筋のVO2動態に部位差(つまり、不均一性)はないと仮定して、活動筋全体のVO2動態を推定したことが挙げられる。ヒトの活動筋微小循環レベルにおける酸素の供給と酸素の需要の動的応答の関係を詳細に検討するためには、活動筋局所レベルのVO2動態とその空間的な分布を連続的に計測する必要がある。最近、多チャンネルの磁気共鳴スペクトル装置(31P-MRS)を用いて活動筋の多部位のPCrを測り、局所レベルのVO2動態とその空間的な分布を連続的に計測する試みがある。とくに、多チャンネルのNIRSとMRSを用いて、運動筋の酸素の抜き取りとVO2の局所的な測定部位を一致させ、筋毛細血管レベルのQcapの空間的な分布を同時計測することが期待される。

今回の報告では、TRS測定装置を用いて運動時における活動筋の酸素代謝を測定した結果を提供した。今後は、従来の生体計測法(脳波、筋電図、エネルギー代謝など)と今回の方法による結果を比べて、身体の負担が少ない製品デザインの客観的な基準を検証する必要がある(例、道具の使いやすさや衣服を締め付ける圧力)。また、今回の基礎的な資料がユニバーサルデザイン・福祉用具・スポーツウエアなどのデザイン現場においても、活用されることが望まれる。

謝辞

今回の研究実施については、浜松ホトニクス社・中央研究所から近赤外分光装置の貸与の ご協力を得ました。厚く感謝致します。

図1.光技術によって筋肉の代謝活動を計測する意義

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図1.光技術によって筋肉の代謝活動を計測する意義

図2.運動開始時における外側広筋・大腿直筋deoxy-[Hb+Mb]の空間不均一性 RF:大腿直筋、VL:外側広筋 Distal:遠位(体幹に遠い側)、Proximal:近位(体幹に近い側)

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図2.運動開始時における外側広筋・大腿直筋deoxy-[Hb+Mb]の空間不均一性
RF:大腿直筋、VL:外側広筋
Distal:遠位(体幹に遠い側)、Proximal:近位(体幹に近い側)

図3.活動筋のVO2と毛細血管レベルQcap応答の代表的な例 a.u.(arbitrary unit, 任意の単位)

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図3.活動筋のVO2と毛細血管レベルQcap応答の代表的な例
a.u.(arbitrary unit, 任意の単位)


    

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