作品|WORK

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神戸芸術工科大学「クリエイティブセンター」の空間構成

Formal system of “Creative Center for Kobe Design University”


藤山哲朗

FUJIYAMA, Tetsuro Associate Professor, Department of Environmental Design, School of Design





2008年3月竣工の「神戸芸術工科大学クリエイティブセンター」は、授業外の制作活動を行うラボラトリー、大学院プロジェクト室、産学連携のための芸術工学研究所を主とする施設である。本稿ではクリエイティブセンターの建築空間としての形式を、写真家・平 剛 氏の撮影写真とともに解説する。

図1 北側ファサード

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図1 北側ファサード

図3 中2階 ラウンジ

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図3 中2階 ラウンジ

図2 1階ラボラトリー

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図2 1階ラボラトリー


図4 2階 芸術工学研究所ホール

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図4 2階 芸術工学研究所ホール

1 基本構成

まず所与の条件として、延床1,500m2の建築規模と対象敷地が決定された。敷地はファッションデザイン学科棟と大学院棟の間にあり、キャンパス創設当初より、将来の施設拡張を予想し、更地として確保されていた部分である。

神戸芸術工科大学は、北側前面道路から南に向かい段上に登る敷地である。キャンパスの東西方向に校舎群を並べ、最下段に先端芸術学部、中段にキャンパスの中心となる広場を設け、その北側に事務局本館、デザイン教育研究センター、図書館棟の全学的施設が、広場の南側にデザイン学部棟を配置している。さらにデザイン学部棟の南、最上段に工房棟がある。デザイン学部の各学科棟の間には適度なオープンスペースが設けられ、最上段まで見通すことができる。 今回の敷地も最上段に至る北向き斜面に面する敷地であり、いかにこの斜面を活かし、南北の連続性を意識させるかという点を考慮した。(本学HP参照、http://www.kobe-du.ac.jp/access/campus.html)

結果として採用した配置は、必要な1階建築面積を確保した上で南側に寄せ、左右の空きと前面の引きのバランスを吟味したものである。このことにより、南側斜面が1階ラボラトリーへの直射光入射をさえぎる役割をもたらす。また建物高さもキャンパス最上段の敷地レベルを超えないよう、10m以下に設定した。

こうした基本的なボリューム計画が定まった上で、空間構成のコンセプトが検討された。

図5 配置構成

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図5 配置構成

図6 配置構成

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図6 配置構成


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2 潜在的な古典主義図式

既存の建築環境の中に新たな建物を加える場合、周囲と調和させるのか対比させるのか。通時的コンテクスト、共時的コンテクスト、つまり歴史的連続性や空間的連続性を読解しなくてはならない。例えばこれが伝統的地区であれば、対応すべきコンテクストは歴史性と明瞭であるが、今回のキャンパスは20年の歴史にすぎない。そこでここでは共時的、つまり空間構成をコンテクストの基盤としてとらえ、キャンパス計画に潜在する古典主義的な構成図式を掘り起こした。

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3 三分割図式

拙訳「古典主義建築−オーダーの詩学(鹿島出版会)」において、アレクサンダー・ツォニスは次のように論じている。古典主義建築とは、この世界の中のもう一つの世界であり、それは完結性、全体性、完全性といった価値観を体現したものである。それを実現させるのが「配列」「種」「均衡」の3つの形式規範である。この内、空間図式として作用するのが「配列」だ。「配列」は建築物を部分に分割して考えることである。

この「配列」はまず「グリッド」によりもたらされる。「グリッド」をabc公式で表記したのが下の図式である。

グリッド」をabc公式で表記した

「グリッド」単独でつくりだされる秩序は、この様に均質なものである。確かに矛盾は含まれないが、反面単調で境界が不明瞭である。これに完結性を与えるのが、もう一つの図式、「三分割」である。三分割について、神人同形論(アンソロポモフィズム)的な観点からは、人間の身体の三部構成、すなわち頭部、胴体、脚を建築構成に投影したものという解釈もある。しかしツォニスは、神人同形論はネオプラトニズム的解釈であり、古典ギリシャの世界観とは相容れないとする。ツォニスはこの三部構成はアリストテレスの詩学に発するものであると理解している。この場合の三つは、「始まり」、「終わり」とその「中間」の部分であり、これにより「グリッド」で分割された部位は、境界性が明示された閉じた領域として形成される。

古典主義建築における最も原型的な図式として、母系配列式

特に上の図式を、ツォニスは古典主義建築における最も原型的な図式として、母系配列式と定義している。

ところで前述の著作でツォニスの意図は、古典主義を様式としては捉えないということにある。それは一般的な「オーダー」という術語に代えて、「種」という言葉を用いていることにもうかがえる。ツォニスは、空間を生成する図式として形式分析することで、古典主義とモダニズム以降の建築の本質的な空間の差異を考察しようとしているのである。

さてこうした形式分析の図式を踏まえると、神戸芸術工科大学の建築の中にも、隠れた古典主義的図式が沈殿しているのが解る。「大学院棟」、「本館」はまさに母系配列式を備えたものであり、「デザイン教育研究センター棟」は三分割「A−B−A」、もしくはその派生形である「a-B-a-C-a-B-a」形式と表すことができる。

そこで今回は、この古典主義的三分割図式をコンテクストの基底にしたうえで、よりコンテンポラリーなダイナミズムを獲得することを意図した。そのために、次の二つの形式的プロセスを遂行している。

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4 斜軸線の導入

建築物の基本構成は中央部のラボラトリーを主に、その両側にエントランス、階段等の動線空間を配した。その上でこの三分割図式の完結性に亀裂を入れ、ダイナミズムを誘発するために両端部に22.5度の斜めの軸線を導入している。これは学部棟の直交グリッドと、大学院棟の45度対角グリッドの中間値であり、両者を視覚的に調停する意味もある。またこの22.5度の平面上の傾きは、階段部の上下動線として用いられることで、さらに立体的な運動性を獲得している。東側壁面では斜めの階段が、ファサードを突き破って屋上に至る。西側斜め壁はキャンパス中心のレンガ広場からのアイストップになる。同時に正面から見ると隣棟との間隔の狭まる奥に行くほど切れ上がる。これは背景の斜面を隠さず、キャンパス中段部から上段部に連続する空間を妨げないためである。

図7 東側ファサード

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図7 東側ファサード

図9 東側階段

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図9 東側階段

図8 東側階段

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図8 東側階段



図10 西側ファサード

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図10 西側ファサード

図12 西側階段

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図12 西側階段

図11 西側ファサード

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図11 西側ファサード


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5 三分割の攪乱:二重振り子モデルによるカオス

さらに古典主義美術の理念とする調和(コスモス)を逸脱し、混沌(カオス)を導くために、正面:北側ファサードにはもう一段階、手を施した。

北側立面は開口部(窓)と方立(マリオン)・サッシによりデザインされている。基準は三分割のバリエーションである五分割の左右対称形である。1階は原型の五分割構成がそのまま表れているのに対し、2階のパターンは法則性が読み取れない。この無秩序を生成するために参照したのが、物理学モデルの一つである「二重振り子」である。二重振り子とは振り子の下にもう一つの振り子をぶら下げた単純な仕組みだが、些細な初期条件の違いが予想不可能な振る舞いを示す、典型的なカオス理論モデルである。ここでは単純なシステムが再帰的に用いられることで、複雑性が生じることが示される。

クリエイティブセンターでは、柱間の五分割に空けられた開口部の形状と、方立(マリオン)の位置をそれぞれランダムに決定し、両者を恣意的に重合させることでカオスを誘発している。これにより静的なファサードに、知覚的な揺れが生じる。

図13 北側ファサード

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図13 北側ファサード

図14 北側ファサード

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図14 北側ファサード


以上のように、今回は作品の形式・形態分析的な観点にしぼって論じた。現代につくられた建築も、それだけでは現代建築としての意義を獲得するわけでない。そのためには、デザインの深部に潜り、システムとしての方法論を構築しないとならないと考えている。

以上

写真撮影:平 剛。主な作品に、写真集「モノフィジットの僧院世界」「砂の楽園−コプトの僧院」共にTOTO出版、等。

    

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