3|実制作

3−1 状況の整理

一次審査通過の段階では、具体的にどのような材料を用いるかは決めていない。審査の前に追い込んでも仕方のないことである。しかし、実際に制作するとなると解決しなくてはならない問題は多い。ハイビジョンサイズの映像制作は初めての試みであるし、一ヶ月以上にわたる展示期間中、滞りなく映像を再生し続ける方法も考えなくてはならない。また、充分な遮光と不特定多数の観客の導線の確保といった相反する条件を備えた空間を作らねばならない。少しくらい乱暴な扱いを受けても壊れない丈夫さも必要だろう。肝心の映像の中身も詰めなくてはならないし、それを投影するスクリーンなどの装置も経済性を考慮にいれてデザインしなくてはならない。再生装置から遮光版にいたるまで様々な方法を検討する日が続いた。

3−2 スクリーンの設営

最終的には、約2.4m×1.2mの縦長のスクリーンを一台設置することになった。当初は2枚構成とし、コンテナ内を完全に間仕切るつもりだったが、メンテナンスに不都合があることと再生機材の制御が困難であることを考慮し変更した。結果的にはプールとの関係でバランスの取れた構成となった。映像再生にプロジェクターとスクリーンを選択したのは、画面の大きさを確保するためであるが、不特定多数の観客の出入りを考慮すると外光の状況に左右されるプロジェクターには不安がある。薄型の大型ディスプレイなどを利用することができれば、より鮮明で安定した映像を得ることができるだろし、空間をもっと自由に使えただろう。主にコストの関係でプロジェクター以外の選択肢はなかった。

写真4 スクリーンの撤収作業

Larger

写真4 スクリーンの撤収作業

写真5 檻の撤収作業

Larger

写真5 檻の撤収作業


3−3 檻の設営

スクリーンに映し出される映像とともに観客の目に触れる重要な構成要素である。予算の関係もあるが、当初から外注するという意向ではなかった。常設展示というのであればいざ知らず、期間限定でもあるので、回収後の処理も考慮に入れ、ボルトのみで組み立て可能な構造物とすることにした。作品としての必然性とあれば仕方のないことかも知れないが、展示終了後にごみとして破棄してしまうような材料で制作するということは、環境問題が非常に大きなテーマになっている昨今の時勢を考慮するまでもなく、気が引ける。一方で既製品を寄せ集めたような構造では安っぽさが付きまとう可能性が高い。また、表面仕上げも作品のクォリティーに大きく影響を及ぼすと考えている。したがって、素材をそのまま活かせる材料を選択し、塗装は避ける方針とした。格子は特に強度を必要としないので、軽量なアルミパイプを選択した。見た目もあまり重くない方が良いように思えた。これを支える枠として、高所作業用のアルミ製の足場を組み立てて用いることとした。ホームセンターの資材売り場に通い、いろんな材料を検討した結果、組みあがった状態での見栄えが期待できるとともに、単体での構造がしっかりしているので、数本のボルトでしっかりと組み立ててれば、充分な強度が得られることも予想できたからだ。格子の間隔は、視認性とメンテナンス性を考慮し、私がギリギリすり抜けられる値とした。写真4/5にそれぞれスクリーンと檻の撤収作業の様子を掲載する。設営時にも多くの学生の協力を得ることができたのだが、設営に手一杯で残念ながら、記録を残すことができなかった。協力をしてくれた学生諸君に感謝したい。

3−4 プールの設営

スクリーンの下、檻の内側の床は、当初庭のように扱うことを検討した。土や砂利などをいれれば、檻の内側と観客のいる外側を明確に区別できると考えた。しかし、スクリーンに明瞭な映像を投影するためには暗さを確保する必要がある。そうなると土や砂利では暗い中での視覚効果を期待できない。そこで、反射の効果を期待できる水を張ることとした。問題は、その水を張るためのプールである。深さはほんの数センチで充分に機能するはずだが、2.4m×4mの面積が必要であることが検討の結果わかっていた。FRPのような材料での制作も頭を過ぎったが、使用後はごみにしかならない割りには手間とコストがかかる。そこで、枠になるプラスチック製のアングルを床面に配置し、これにビニールシートを被せ、枠と重なったシートをプラスチックパーツで挟みこむという方法をとった。これに水を注ぐと外に向かう水圧とのバランスで形状は安定した。しかし、選択したシートが銀色であったため、水を張っても反射率が低いことが完成後に判明した。そこで、急遽黒い砂利を敷き詰めることとした。これにより、映像は水面により強く映りこむことになり、空間に広がりを与える効果を得た。ただ、長期にわたる展示の中で水はよどみ異臭を放つようになった。ある程度予想できたことではあったが、特に対応はせず黙認した。また、蒸発して水位が下がってしまうので、会期中何度か水を足している。映像機器への影響に配慮し機器周辺には除湿剤を配置した。

写真6 コンテナ内部から遮光壁を見る。

Larger

写真6 コンテナ内部から遮光壁を見る。

3−5 遮光壁の設営

コンテナの出入り口は不特定多数の人が出入りするので、安全性も考慮し、暗幕をつるすこととした。しかし、暗幕が常にきちんと閉じられるとは限らない。そこで、遮光のため、コンテナ内入り口付近に遮光壁を設けることにした。無塗装の素材を、会期終了後ゴミにすることなく持ち帰ることを前提にしているので、ホームセンターで様々な素材を検討した結果、黒色のプラスチックダンボールとポリカーボネイト板を組み合わせる方法を発見した。ポリカーボネイト側から見ると、独特の光沢感があり、それほど安っぽい感じがしない。かといって重くはない存在感である。遮光壁の機能としては非常に好都合に思えた。これを、アルミアングルの柱に装着し、コンテナ内に設置することにした。(写真6)


3−6 映像再生装置

映像の再生には、ハイビジョン再生が可能なハードディスクプレイヤーとしては安価なプレイステーション3を使用した。ゲーム機でもあるので、耐久性もある程度期待できるのではないかと考えた。プロジェクターは、やはりハイビジョン再生可能なものを選択した。本来、横に置くものを縦置きにして使用することでどのような不具合が起こるのか予想できなかったが、誰に聞ける問題でもないので、当初の予定通りに使用した。どちらも高熱を発する機材なので扇風機を設置することで対応した。2ヶ月近い会期中、映像をループ再生し続けることは、当初から不安であったが、結果的にはなんら問題もなく無事に展示を終えることができた。


 HOME

 page top