6.本論文で採用した手法(化学酸化法を実施した後で陽極酸化法を追加)

チタン黒下塗り膜は化学酸化法で得られることを既に述べた。これは通電せずに化学反応のみで処理する方法で、低明度・低彩度の黒色チタン膜であった。今回の研究はこの低明度・低彩度のメリットに注目し、化学処理と陽極酸化法を組み合わせて新たな色彩付加の可能性があるかを検討した。新しい処理法の手順は図4のプロセス流れ図で示したように以下の通りである。

(1)化学法で得たチタン黒下塗りチタン板を、15%硝酸+5%フッ酸(フッ化水素酸)+80%水から成る一次液に入れ、黒色を落とす。

(2)試料を十分に洗浄。

(3)陽極酸化法と同様に二次液に入れ、表面を活性化する。

(4)再度流水中で十分に洗浄

(5)活性化した試料を電解液に浸し、希望する発色に合わせて電圧を設定し、陽極酸化を実施する。

(6)流水中で最後の洗浄を実施してプロセスを終了する。

従来、化学酸化法は黒色を得るためにのみ、陽極酸化法とは別に実施されてきた。黒色を得るために実施されてきた化学酸化法で一旦形成した黒色層を消去し、引き続いて陽極酸化法を施したのは偶然のことであるが、結果的には興味ある色彩、すなわち、より中間色に近い色相が得られることに気づいた。企業や学際的な論文などにもこの事実を指摘した情報は、筆者の知る限り、現在までのところ皆無であり、今後の中間色を得るための強力な手段となるものと考えられる。

この複合プロセスで重要なポイントは、黒下塗りの陽極酸化を実施する際に、どのくらいの時間一次液に入れるかである。予備的な検討の段階ではあるが、一次液に1分以内しか浸さず黒色を不十分にしか落とさないままでその後陽極酸化を行うと、試料表面に色の斑が形成されて、一様な発色が得られなかった。一方、一次液に1分以上浸し十分黒色を落とした後に陽極酸化を実施すれば、一様でかつ美しい色が得られることが判った。

現段階では(1)のプロセスで一旦黒化した膜を除去するプロセスがその後の発色のメカニズムにどのように関与しているかは不明であり、今後の検討項目である。 

なお、本論文に関連して制作を試みたのは、従来プロセスに筆描きと称する手法を組み合わせて制作した作品(図10参照)である。この方法は陽極酸化法の特殊な方法で、陽極酸化プロセス時に水槽にチタン試料を漬けるのではなく、筆自体に通電しながら希望するパタ−ンをフリ−ハンドで描く方法である。通常マスキングを繰り返しながら多色化するのと異なり、水彩画のような筆のタッチで色彩表現が可能である。また同時にマスキングも併用できるので細かい自然なタッチまで描写でき、デザイン上興味深い手法である。


 

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