図4 陽極酸化プロセス流れ図

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図4 陽極酸化プロセス流れ図


図5 小型実験装置(株)信栄製

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図5 小型実験装置(株)信栄製


図6 バイクのマフラー(株)ホリエ

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図6 バイクのマフラー(株)ホリエ


図7 浮世絵屏風(株)信栄

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図7 浮世絵屏風(株)信栄


図8 アクセサリ(アトリエYOU)

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図8 アクセサリ(アトリエYOU)

5.チタンの着色法

前節で金工および装飾品用の材料としてチタンが如何に優れた材料であるかが明らかになった。さらに工業製品などプロダクトデザイン用の材料として、以下に述べるように他の金属材には現在までのところ不可能な特別な利点が存在する。すなわち、デザインには形と色彩の2要素があるのは云うまでもないが、前者の形に関しては、金属加工性に優れていれば金工などにより製品の形状の創成は容易に可能である。一方、後者の色彩に関してはデザイン上フルカラ−に近い着色が素材に付加できることが理想的である。幸いなことに、チタン材には他の材料では及びもつかない強固で退色しにくい着色法が可能であるという利点*4 ,5 がある。勿論チタン以外の金属材、例えばステンレスあるいはアルミニウムなど、に関してもチタンと同様な着色の可能性が最近検討され始めているが、チタンに比べ、現実的な実用技術レベルには達していない。チタン材のみが現在までのところ突出して優位性を保っている。

更に、ほとんどの金属製品は、金属加工後表面処理を行わずそのまま大気中に放置すると、表面に酸化や硫化などの化学変化が常温でも起り、変色する欠点がある。例えば、人類が初めて使った銅や青銅などの表面を露出した状態で長時間大気中に放置すると緑青などの錆が浮き出る。緑青自体はデザインの色彩上およびそれ以上腐食が進まない防御法の点で、必ずしも否定的な変化ではない。したがって、古来から使用されている着色法や塗料で表面処理を施すなどの種々の方法も開発されてきた。しかし従来の着色法などでは長時間にわたりその効果を維持するのは至難の業で、特に多色を同一素材面上に付加することは事実上不可能であった。

これに比べ、チタンの表面は材料自体が耐食性に優れているという特性から、建築や外装材などに表面処理を施さないまま使用されている例*4 ,5も多々見られる。デザイン上興味深いのはチタン材表面に様々な多色の色彩を施し、より美的で耐久性も高い建築用あるいは体に優しいアクセサリ−や空気を浄化する装飾品*2 など民生品として優れた特性を付加できる点である。以下にこのチタン表面に着色する従来法と、さらに本論文で試みた手法について述べる。なお、着色プロセスを開始するに当たり、まずチタン表面を浄化する。具体的にはアルコ−ルやアセトンなどの溶剤中に試料を漬け超音波洗浄器などで10分程度処理した後、大気中で自然乾燥した。どのような色彩を目指すにしろ、良好な結果を得るためには表面が清浄である点が肝要である。特に機械加工時に使用する潤滑油の残渣や試料のハンドリング時に付く作業者の指紋や脂肪分などは、着色後に試料上に斑が形成される原因となるので注意する必要がある。試料の準備が整ったら以下のような酸化処理を実施する。

5−1 大気酸化法

大気酸化法はチタン試料に直接炎を当てるか電気炉などを用いて空気中あるいは酸素ガスを炉に流しながら加熱する方法で、約300−800℃前後で酸化させ、表面に皮膜を形成させるが、その際得られる色はこの酸化皮膜の膜厚で決まる。本論文ではこの手法を採用しないので詳しく述べないが、大気酸化法は、一般に陽極酸化法より試料表面に得られる色彩の色変化が少ないと云われている。更に、炉中などの作業のため、同じ面内に多様な色を持たせるための制御は難しくなったり、加工には大きな電力が必要であったりといった欠点も挙げられる。

5−2 化学酸化法

電気を使わずに化学反応のみにより着色皮膜を形成する方法である。特に大気酸化法や陽極酸化法では発色できない黒色を得るための唯一の方法であることが知られている。具体的には図4の左側に示すように、試料に通電せずに硫酸溶液中で処理する。

化学酸化法で得られる着色皮膜は一般に色相に乏しく、かつ低明度、低彩度の黒色チタンの色が得られる。陽極酸化法では不可能な黒色を得るためだけに現在でも陽極酸化法と併用されることが多い。

5−3 陽極酸化法

この発色法は、電解液中で図4に示した陽極酸化プロセスに従い実施される。従来の陽極酸化法では図4の左側の化学酸化プロセスを独立させ、黒色を得たい場合のみ実施することは5−2で既に述べた。次いで黒色部分にマスキングなどを施した後でフッ酸と硝酸の混合液の一次および過酸化水素とフッ酸の二次液中で前処理した後に、図示した燐酸水溶液である電解液中で陽極酸化プロセスを実施する。通電により酸素が槽中の陽極近傍に発生し、陽極に繋いだチタン試料の表面に酸化皮膜が形成される仕組みになっている。皮膜としての酸化膜層は比較的緻密でかつ強固なので、内部の金属チタンを腐食などの経時変化から保護する役割も果たす。また、重要なのはこの酸化チタン膜の厚さによって見える色が決まる点である。現在先行的な試作を実施している企業では、この手法により約110種類以上に及ぶ色彩が得られている*6 。この際呈色するための光学膜厚は50−100nmの範囲であり、どんなに厚くても300nmを越えないといわれている*7 が、今回試作した試料について、試料断面を走査電子顕微鏡で観察中である。

この酸化皮膜の物理的厚さと膜の屈折率を掛け合わせた光学膜厚の違いにより現れる色は干渉色と呼ばれ、例えばシャボン玉の虹色、水に浮いた油脂膜の虹色、など構造色と呼ばれる自然界で広く観察される現象と同様である*8 。ただし自然界の生体や、真空蒸着法と呼ばれる工業技術と少し異なるプロセスで作成されるのが陽極酸化法である。実験に使用した陽極酸化法の装置を図5に示す。図5は典型的な小規模実験装置((株)信栄製)で、図中央の電解槽と右側の電気入力(DC定電圧・定電流装置)のみから構成されている。図4の模式図では槽中のプラス側の電極に着色すべきチタン試料を繋ぎ、マイナス側は陰極の固定電極である。

陽極酸化プロセスを少し詳しく述べると、次のようになる。プロセスは2段階に分かれており、始めに槽に一次液として図中に示した混合溶剤を使用する。このプロセスの目的はチタン試料表面に残っている加工時の指紋や汚れあるいは既に処理をして得られている不必要な酸化皮膜などを除去することである。このようにして清浄なチタン表面を得た後で、次に陽極酸化が促進されるように同様に図中に示した二次液中で処理を行い、この後燐酸希釈液の電解液中で陽極酸化を実施する。ただし、一次および二次液中での処理中には通電せず、陽極酸化プロセス中のみ一定のDC電圧を印加する。本論文では一定時間を設定した上で望む色が得られるように電圧値を変化させた。

実際に陽極酸化法で得られている例を2、3紹介する。まず本学正門近くの垂水交差点寄りの大学敷地内に設置した(株)信栄製の「神戸芸術工科大学」の立看が身近にある典型例である。大型試料(約1.5×4m)で、色彩は紫に近い単色である。このような大型の試料でも陽極酸化槽を大型化することで陽極酸化が可能である。次にプロダクトデザインとしての民生品のバイクのマフラ−の例*9 を図6に示した。またデザイン・芸術的にも興味深い、極めて複雑なマスキング法により制作された2m(縦)×0.6m(横)四曲の浮世絵屏風((株)信栄制作)の試作例*6 を図7.に示す。この例はチタン製の屏風が設置されている空間の空気清浄効果*2も果すように意図されている。筆者らも実際にこの屏風を見せて頂いて陽極酸化法の研究を手がける契機になった。また小物の陽極酸化が得意なトロンYOU(京都)が作製したアクセサリ−例*10 を図8に示す。


 

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河本:光触媒用酸化チタン、;橋本・藤嶋監修:図解・光触媒のすべて(工業調査会,2003)pp.60-62
J. Edwards: Coating and Surface Treatment Systems for Metals (Finishing Pub. Ltd and ASM Intern.,1997)39-40
P.G. Sheasby and R. Pinner: The Surface Treatment and Finishing of Aluminum and its Alloys vol.1 and vol. 2 (ASM Inten.& Finishing Pub.,2001)427-596,597-742
(株)信栄カタログ:虹の輝き
佐々木:酸化チタンナノシ−ト;橋本・藤嶋監修ibid(2003)pp.66-67
小倉他:神戸芸工大紀要'03(2004)PP.142-161
(株)ホリエカタログ
「アトリエYOUカタログ:新素材の主流はチタン;TITANIUM ART;JEWELY & ART