2.前提としての「文字」「書体」「活字」「組版」の諸相

「グラフィックデザイン」の名のもとに包括される多様な表現の分野においては、それを統括的に解析するための、いくつかの基盤的な論点が考えられる。きわめて近代主義的な立場からは「(形態や空間の)構成」が重視されるのであるし、象徴論的に「図像表現」の構造に分析をもとめる場合もある。またあるいは純粋に「色彩」と「形」の心理学に論考を集中する立場もあれば、純粋に物理学的・光学的な分析をおこなうことも考えられる。

本研究において主要に論じられる「(日本語の)文字」の問題は、もとよりそうしたどの論点とも分かちがたく、常に「グラフィックデザイン」の基盤をなす要素として遍在しているものである。さまざまな社会の相で、さまざまな「紙面」「誌面」の上で、さまざまな色や形をともなって、「タイポグラフィ」や「組版」と呼ばれるものとして、「文字」はわれわれの眼前に現れてくる。現れた「文字」はそれぞれに個別の「書体」という形をもって「紙面」の上に定着している。「書体」はその出自を常に、輪郭の微妙な線の形状の内に潜めているものであるが、「書体」の由来の究極をもとめることが、ここでの主要な目的ではなく、「言葉」が「文字」という形を持つ瞬間に起こる「驚き」や「不思議」を今一度、新鮮な知覚として獲得することこそが本研究の本義なのである。

「文字」は、「音=声」が形をなしたものとして、「言葉」が記号として定着したものとして、私たちの生存そのものに深く結びついて、人間の「文化」の根本を支えているものであり、人間の「社会」を動かしている原動力そのものである。

「文字」はまた、それぞれの地域的・歴史的な、文化の固有性の中で特徴づけられるものである。なによりわれわれは「日本語」の文化に属するものなのであるから、「思考や伝達のための形象」としての「日本語の文字」の問題については「前提」に縛られない多様な視点での論議をもとめていきたい。

「漢字」と「仮名」から成る日本語の複雑さを「特殊」として切断することなく、共有しうる「普遍」にいたる行程での「不思議」として感得したいと考えるものである。

そのように「文字」「書体」「活字」「組版」の諸相を予断無しに眺めていく立場からこそ、新しい「デザイン」の実践の展望の獲得があるのだとしたい。


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