2 実践事例に関する考察

 上記の3つの実践事例はどれも神戸市内で実施された神戸市の関連組織・団体が主催する事業である。必然的に公共性の高い内容となったが、同時にアートの観点においても重要な共通点が見出せる。共通点は3つ。(1)まちかど絵画(2)期間限定(3)共同制作。本章では、この3つの共通点を通して、地域社会と関わるアート活動の可能性と課題について考察する。

(1)まちかど絵画

3つの事例は全て神戸市内の「まちかど」に描かれた絵画である。電車やバスもまちの風景の一部である。電車やバスは移動ギャラリーと捉えることもできるだろう。学生や子どもたちが描いた絵画が「まちかど」にあふれる状況は、地域住民の主体的なまちづくりを象徴するものである。こうした活動を拡大していけば、まち全体が美術館となり、毎日が展覧会のような状況が生まれるだろう。「まちかど絵画」は、地域の人々の交流を促進し、老若男女が表現を楽しむ創造的なまちづくりなのである。高齢化による限界集落の交流促進や、シャッター街となった商店街の活性化など、その応用範囲は広い。

課題は絵画を描く「まちかど」探しと、それを実現するための工夫である。絵画表現が可能な「まちかど」は地下通路の壁、商店街の空きスペース、運動場のフェンスなど、探せばたくさんある。問題はそれを表現の場にできると認識できるかどうかである。また、素材や技法の面で工夫をしなければ「まちかど絵画」は実現できない。事例2では静電シートという素材に絵を描いた。この場合は、電車のガラスに直接塗装したり、接着剤を使用できないためである。それぞれの「まちかど」に適した画材を捜したり、工夫していくことも「まちかど絵画」を実現していく上で大切な課題である。

(2)期間限定

従来のパブリックアートの多くは、野外彫刻や公共施設の壁画など専門家による半恒久的な美術作品の制作設置であった。これはパブリックアートが美術館の延長線上にあったことを意味している。今回報告した作品も公共空間での表現であるため、パブリックアートの一種と考えることができるのだが、どれも一定期間公開され、その後撤去される作品である。私は、今後のパブリックアートは今回の事例のような期間限定の仮設的なものが中心になっていくと考えている。

期間限定であることの魅力は、実験的活動に挑戦できることと、低予算かつ短い準備期間で事業を実現できるところにある。期間限定であるため、一般参加の活動やアーティストによる実験的な表現に挑むこともできる。低予算かつ短い準備期間で事業が実現できるため、経験の少ないスタッフであっても気軽に取り組むことが可能になる。そこからの積み重ねは主催者にとってノウハウの蓄積となり、自信と意欲を高めることにつながっていく。期間限定とすることで様々な可能性がひろがるのである。アーティストによる実験的な表現と、地域住民を中心とする「まつり」のようなイベントが出会っていくことで、公共空間の芸術表現も大きく変化していくことが予想されるのである。

(3)共同制作

3つの事例はどれも共同制作である。共同制作は参加者同士の結びつきを高める効果がある。参加者全員が表現の喜びを分かち合うことの価値は大きい。こうした感動体験を共有することが、地域のネットワーク強化につながるからである。

課題は作品の完成度を上げることである。参加者の感動や満足は制作過程での交流だけでなく、作品の出来栄えにも大きく影響される。しかし、多くの人が関わる共同制作で作品の完成度を上げるのは大変である。そこで全体を見渡す「目」が必要となる。事例1で事前にスケッチを集め下絵を作図したのも、現場で全体をまとめることが困難であることが予想できたからである。参加者が増えれば増えるほど、リーダーやコーディネーターがいなければ、力を結集することは困難となる。こうした活動を実践するアーティストは、テーマ設定や作業計画をよく練り、混乱なく充実した成果が得られるように工夫しなければならない。


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