3 集落における水と生活

3−1 はじめに

白川郷は白山連峰の東端に位置し、1985年6月に世界遺産に登録された集落である。我々が訪れたは、東の山から清水が湧き、西に庄川が流れる豊かな水資源に恵まれた集落であり、集落内では家々や田んぼの間を縦横無尽に水路が走り、あちこちに「シュウズ」と呼ばれる清水が湧く場所を確認する事が出来た。

3−2 調査の概要

図3-1 調査地点(赤線:調査で歩いた場所)

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図3-1 調査地点(赤線:調査で歩いた場所)

3−2−1 調査の目的

白川郷は、昔から天然の水が豊富な地域であり、湧き水や山の水、庄川の水を生活に利用して来たが、近年における生活様式の変化や上下水道の整備、観光化や開発に伴う水資源の変化などによって、以前と比べて水の使い方が変化し、また多様化してきたと考えられる。この調査では、生活に関わる水がどのように使い分けられているか、また多様な水の使い回しと排水に注目し調査を行った。(図3-1)。

図3-2 調査メンバー

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図3-2 調査メンバー

3−2−2  調査メンバー(図3-2)

・松本美保子、かわいひろゆき、藤本修三、玉川絵理、王曄、尹性、朴鍾燮、木下怜子、姚大斌、權惠眞、山下孝典、尹智博(以上、神戸芸術工科大学)
・李明姫、潘美先(以上、東西大学)
・于小川、王薇、王帥(以上、北京理工大学)

3−2−3  調査スケジュールおよび調査方法と調査場所

調査スケジュールは以下に記すとおりである。
8月8日午前:シュウズの現状確認および聞き取り調査(全員)
8月8日午後:聞き取り調査班、水の使われ方についての聞き取り調査;どぶろく調査班、どぶろく祭りの館にてどぶろく祭りの調査
8月9日午前:前日の聞き取り調査の補足

調査は、住民に対する聞き取り調査を主体とし、清水の水温の測定、写真による記録を行った。限られた時間内の調査なので、数箇所の地域に限定して、調査を行った。調査した場所は、昔は一番いい水が出ていた「しんすけのシュウズ」と、シュウズがたくさん集まっている明善寺、数箇所の民家・民宿、調査メンバーが宿泊している民宿で行った。

図3-3 調査内容

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図3-3 調査内容

3−2−4 調査地点

調査場所は、しんすけのシュウズ、名善寺、えびす屋(土産物屋)、一茶(民宿)、幸エ門(民宿)、源作(民宿)の6カ所である。(図3-3)

3−3  シュウズに関する聞き取り調査

3−3−1 しんすけのシュウズ(図3-4):5代目しんすけさん(大正2年生、94歳)(図3-5)の話

・2007/8/9, 9:35am : シュウズ水温11℃
・昔、家を建てるときは清水を頼って家を建てた。清水のあるところに家がある。
・現在「しんすけシュウズ」を覆っている小屋は、昔清水があったことを伝えるためにある。昔は腐りにくい栗の木で屋根を葺いていた。
・一つの清水を使用する家同士が共同でこれを管理する様になっていった。シュウズの水温は年間を通して10℃近辺であり、現在ではやかん(図3-6)の中のお茶や野菜を冷やす等の用途に使われている。
・昭和33年(1958年)にダムが出来てから、茅葺屋根をトタン屋根に変える家が増えた。

図3-4 しんすけのシュウズ

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図3-4 しんすけのシュウズ

図3-5 5代目しんすけさんからの聞き取り調査

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図3-5 5代目しんすけさんからの聞き取り調査

図3-6 水温は11℃。現在ではやかんのお茶や野菜を冷やす

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図3-6 水温は11℃。現在ではやかんのお茶や野菜を冷やす

 


3−3−2 明善寺の裏のシュウズ:明善寺の住職の話

・2007/8/9, 10:12am
・明善寺は白川郷内において歴史的には新しい寺である(図3-7)。村自体は縄文時代から人が住んでいた。養蚕が主産業の集落であった。
・しんすけさんは明善寺の分家。
・シュウズは飲み水にも使われる。ホースで各家に清水が行くようになっていた。
・シュウズの水温は年間を通して10℃くらい。
・明善寺では現在でもシュウズと水道水の両方を使っている。飲み水は清水(シュウズ)。シュウズはホースで家の中にひいて使っている(図3-8)。風呂は水道水を使用。
・清水は流れているものから、必要な分だけ汲んで使う。使わなかった清水はそのまま流れていく。
・水道水は下水へ流れ、イイジマ集落の処理場へ。
・水の使いまわしについて─ (1)清水:洗い物は下流(溝)へ(図3-9)。昔は皿や食器はお茶で洗って済ませるので、たまにしか水洗いしなかった。近年合成洗剤を使ったらタニシや蛍などの水生生物がいなくなった。田に入れる水は、朝に溜めておき太陽熱で温めてから田に入れる。すべての水は、庄川へ流れる(山→村→庄川)。(2)水道水:生活排水は下水へ。
・高速道路やトンネル工事のせいで水の流れが変化した。
・消防の水は(図3-10)、幹線水路(図3-11)や展望台(の貯水池?)を水源としている。
・お金持ちは井戸を掘る。
・水が湧き出る場所について:神社の上は湧き水が出ない。少し下流の方でも湧き水が出ない。
・60年ほど前に山津波がおこり、その時、天龍宮を建てた。
・幹線水路は、泥や石が詰まっていないか、当番で見て回る。年に1〜2回、春と秋に水源を止めて土砂さらいをする。
・土石流危険渓流は、60年ほど前、土石流によって出来た路を水路にしたもの(図3-12)。

図3-7 明善寺、歴史的には新しい寺

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図3-7 明善寺、歴史的には新しい寺

図3-8 明善寺の裏のシュウズ。ホースでひいて使っている

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図3-8 明善寺の裏のシュウズ。ホースでひいて使っている


図3-9 洗い物は下流

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図3-9 洗い物は下流

図3-10 消防の水

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図3-10 消防の水


図3-11 幹線水路

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図3-11 幹線水路

図3-12 土石流危険渓流。60年ほど前に土石流によって出来た路

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図3-12 土石流危険渓流。60年ほど前に土石流によって出来た路


図3-13 分配器清水を各家庭へ分ける

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図3-13 分配器清水を各家庭へ分ける

3−3−3 えびす屋(土産物屋さん)の話

・2007/8/9, 2:00pm
・生活用には、水道ができてから水道水を使っている。お年寄りは清水、50代くらいからは水でも清水でもどちらでも良い。客に出す水は保健所の指導で、検査して合格した清水か水道水。井戸水は飲まない。井戸水は赤錆が出たりする。井戸水は融雪に使う。
・清水は分配器(図3-13)によって各家庭へ行っている。

図3-14 民宿「一茶」の水車

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図3-14 民宿「一茶」の水車

3−3−4 一茶(民宿)のおばあさんの話

・2007/8/9, 2:17pm
・外(池)の水は明善寺の横からきている。夏は冷たく、冬は温かい。
・水は縁の下を通って、家の反対側にある水車(図3-14)へ。台所の排水は下水へ。生活用水は水道。清水は検査をしてから家の中に入れる。
・井戸水は冬になると家の屋根(トタン屋根)に流して雪が積もらないようにする。

図3-15 民宿「幸エ門」。道より低い前庭で雪を溶かしていた

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図3-15 民宿「幸エ門」。道より低い前庭で雪を溶かしていた

3−3−5 幸エ門(民宿)の話

・2007/8/9, 14:26pm
・昔は家の前(の道)よりも低くなっているところに水を流して雪を溶かしていた(図3-15)。今は重機で処理する。冬に棚池(田んぼ)に水を溜めて雪を溶かす。
・水の流れは一方通行でないと、下(低地)の方の水が少なくなる。水の流れる水路は「気遣い」によってある程度決まっている。(※水を独占しない、ということを言いたいのだと思う)
・今は、山から流れる水が減ってきた。

3−3−6 源作(宿)のおばさんの話

・2007/8/10, 9:02am
・この村には比較的子供が多い。人口は横ばいだが、少子高齢化。
・和田家のシュウズは「知る人ぞ知る」水。
・昔は下ミンジャ(台所)に段々に水が流れるところがあった(図3-16)。
・源作では山から出てくる湧き水をとってきて使っている。4軒で使用。たまたま親戚、親戚同士で共有している。山からの水は、落ち葉などが入らないようにホースで持ってくる。常に多い量の水が流れていた。
・昔、山崩れが起きて水が枯れたことがあった。また、トンネル工事により、水が細くなり、4軒で使うには少なくなった。ホースにはゴミ(枯葉など)がつまる。
・水は山(の湧き水)以外に、川から持ってくることもある。本流(庄川)の水の権利は強く、流れを止めてはいけない。
・源作の家の裏にある池は雪消し用(図3-17)。大雪の時は助かるが、家に湿気が溜まるという欠点もある。池の鯉は冬は木の箱の中に入っており、春になると出てくる。
・家に入ってくる水は、下水道が完備しているので、下水道に流す。外を流れる(火の)用心水や田の水は川に流れる。
・下水道を完備してから3年後に、川にウグイが戻ってきた。、ハトヤマ町、イイジマに下水処理場がある。下水処理場ができたときに水洗トイレにした。水洗トイレにしたのは9年くらい前、工事が始まって10年くらい経ったとき。川下から川上に、順々に整備されてきた。
・水道はずっと昔からあったが、山の水を使うことが多かった。33、4年前(昭和48、49年)に水道が完備された。
・観光客の立ち小便や野糞が多くて、水が汚染された時があった。
・防火用水は、360号線から。落差の水圧だけで、全機出しても15分は持つ。30年くらい前に工事をした。
・源作の茅は24〜5年経っている。屋根の葺き替えには「結」があるが、ちょっとした修理程度ならば、日当を払って修理を行う。小春日和の風の弱いときにやる。
・合掌造りの2、3階は物置。簾を置いたりしている。
・源作が涼しいのは川風があるから。ダムの水が流れるともっと涼しくなる。
・屋根の雪下ろしは、普通の家なら3回おろす。源作は1回。1.5〜1.6mくらい積もるとおろす。上から順に「てこ」でおろす。てこは木でできている。

図3-16 台所の洗い場(想像図)

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図3-16 台所の洗い場(想像図)

図3-17 民宿「源作」の裏の池は雪消しに使われている

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図3-17 民宿「源作」の裏の池は雪消しに使われている


3−4 聞き取り調査内容について

この度は、限られた時間中での聞き取り調査であったため、事例数が充分ではない。

従って調査を分析し、まとめることをせずに聞き取りのメモをそのまま記録とすることにした。南北に長い村落の中にあっても、住んでいる地域また、お土産屋や民宿を営む家、聞き取りに協力いただいた人の年齢等々により、「水」の使い方が異なる事もわかった。また住人全員が「水」に対してとても大切な物と考え大切にしていた事も理解できた。

3−5 神事に関わる水

3−5−1 どぶろく

どぶろくとは、古くからある濁り酒の異称である。その語源は定かではないが、もともと「濁り酒」は中国からきた言葉で「濁酒」と書く。この濁酒と同じ意味の言葉は「濁醪」であり、「だくろう」と読み、文字どおりもろみ(醪)を漉し取らない濁った酒という意味である。また、どぶろくの他の異称としては、「どぶ」、「もろみ酒」、「白馬」などがある。

3−5−2 どぶろくとの関わり(白川八幡宮での調査(図3-18))

かつて白川郷は、平家の落人の隠れ里と言われ、古くから外との交渉の少ない土地柄であったため、村人の心をいやすものは酒以外にはなく、粟・稗の雑穀類で地酒をつくっていた。年代は明らかではないが相当古くから「どぶろく」が祭礼(図3-19)に用いられていたと思われる。年治元年、会計宮布達による濁酒免許(100石につき金20両の税金)、明治4年免許制度(許可料金5両)が施行されたが、神社祭礼用については、慣習により無税で濁酒をつくっていたと記録されている。昭和23年に酒税法が改正され、神社の「どぶろく」にも、酒税が課されることになった。税金はアルコール度数13度未満の物に対し1キロリットルあたり98,600円を基準にして、度数が1度増すごとに8,220円ずつ加算した額が課税される事になった。昭和37年より酒税法が一部改正され製造限度量が7キロリットル(38石8斗8升)になった。「どぶろくづくり」(図3-20)は、古くより受け継がれた独特の技法でもって、雪にうもれた一月下旬に、神社酒蔵で造りこまれる。どぶろくは祭礼用として特別に許可されたもので、境内からの持ち出しが禁じられている。

図3-18 どぶろく祭りが行われる白川八幡宮

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図3-18 どぶろく祭りが行われる白川八幡宮

図3-19 どぶろく祭り

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図3-19 どぶろく祭り



図3-20 どぶろく製造工程表

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図3-20 どぶろく製造工程表


3−6 まとめ

「昔は清水を頼って家を建てていた」という言葉どおり、ひとつの清水があるとそこにひとつの清水を共有するコミュニティが生まれ、そのコミュニティによってシュウズ(清水)が守られ、維持管理されていくのが、白川郷における水と生活のあり方である。現在では清水を一度分配器に集め、そこからホースで各家庭に配る方法があり、上水道を使用する家庭もあるが、幹線水路等の地域の共有となる水源についての管理等で、水をひとつの媒体とした共有関係は未だ続いている。環境設備が進み、衛生上の問題から、清水を昔ながらの使用法として使っていく事が難しくなっていく中でも、この古き良き水を守り、活用し続ける事によって、ひとつの文化も継承されているのではないだろうか。世界遺産である白川郷と深く関わってきた現地の水を、ひとつの文化として継承していく為にどうするべきか、単純な枠決めによる行政施行に疑問を持ち、考えていかなければならないのではと感じる。

以下は、白川郷の住民が定めた、とても大切な「白川郷を守るためのルール」である。

(1)白川郷三原則:「売らない」「貸さない」「壊さない」
(2)の自然(家屋、屋敷、畑、山林などを含む)を守る。

《生活用具調査班》
王曄 WANG Ye
 YUN Seong-Cheol
朴鍾燮 PARK Jong-Sup
木下怜子 KINOSHITA Reiko
姚大斌  YAO Dabin
權惠眞 KWON Hye-Jin
山下孝典 YAMASHITA Takanori
尹智博 YOON Ji-Bak
潘美先 (東西大学)
王薇 (北京理工大学)
王帥 (北京理工大学)

【担当教員】
松本美保子 MATSUMOTO Mihoko
かわいひろゆき KAWAI HIROYUKI
藤本修三 FUJIMOTO Shuzou
玉川絵理 TAMAGAWA Eri
李明姫(東西大学)
于小川(北京理工大学)


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