4 まとめ

 デザイナーにとってアイデアを発想するという作業は、一連のデザインプロセスの中でも特に重要な作業であることは言うまでもない。かつての必需品を作っていた時代、言い換えれば“ユーティリティが確定していた時代”は、アイデアワークの目的は主に、多様な造形を展開することであった。そうした時代のデザインワークにおける多様な造形を導くアイデアの源は、ユーザーの生活価値の変遷に伴い、技術的先進性の表現・多様なライフスタイル(シンプル・デコラティブ・モダンなど様々)への適合・住居のインテリアデザインとのマッチングなどなど、時代の変化やユーザーの要請の変化に伴って比重を変えてきた。ただ、いずれの時代にも、技術的先進性の表現はユーザーに対する重要な“新製品の訴求ポイント”であり、モノ作りの中で、デザイン部門は常に“最先端の機能を搭載した新製品”であることを表現することを求められてきた。L.H.サリヴァンによる「形態は機能に従う」という言葉は、インダストリアルデザインにおいては、技術的に最先端であることを外観の形状によってイメージさせるデザイン表現のための、最も端的なコンセプトワードとして用いられていたとも言えよう。

 新たに開発され進歩し続ける技術を導入することで新製品としてのアドバンテージを得ることの繰り返しが製品の多機能化を促進し、製品の多機能化が招いた操作の複雑さが、デザインテーマに操作性の向上、言い換えれば“使い勝手の良さ”を加えることとなり、ユーザーインタフェースを無視したモノ作りは、最早あり得なくなった。そして今は、次の必需品或いは必需でなくとも購買欲求を刺激するものを創り出すことが求められる時代、つまり“新たなユーティリティ”を構想することがデザイナーにも求められる時代である。デザイナーにはデザイナーならではの存在価値があり、その一つは、アイデアを平面や立体で表現できることである。ユーティリティという“目には見えにくいもの”を表現することもまたデザイナーには可能であり、ユーティリティが“役立ちや楽しみ”といった経験的な価値であるからには、その“経験している様子”を描くシーンスケッチは、より良いユーザエクスペリエンスを表現する効果的な手法の一つであり、新たなユーティリティをプレゼンテーションし共感を得るためにデザイナーが身につけるべきスキルの一つであろう。

 かつて、インダストリアルデザインの教育現場でも「形態は機能に従う」は金言として伝えられてきた。その考え方は今もモノ作りの現場で生きているが、それだけでは現在のモノ作りの課題には応えられない時代でもある。ユーティリティの構想をデザイン教育の中に組み込んでいくためには、形態・操作性・アプリケーション・システムなどのデザインは、人の生業の中での役立ちや楽しみといった、経験的な価値に見合ったモノやコトとして発想し表現することとして位置づけたい。端的に言えば「デザインは経験的な価値に従う」と表すことになろうか。今回の研究のまとめとして、この考え方を、ユーティリティデザインの教育現場のためのコンセプトとして提示しておきたい。


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