4.ファッションとテクノロジー 

 20世紀のファッションは、既製服産業が爆発的に成長し、大量生産を背景にして誰もが良質のファッションを手にすることができるようになった。一方では、巨大化したファッション産業は、流行の速度を加速させ、過度の浪費を生み出してきた。この間、ファッションデザインは表層の装飾のみを変化させることに終始し、生産システムも含めた衣服の構造の見直しは、ほとんどされてこなかった。この章ではそういった中で、21世紀初頭に進歩したテクノロジーを用いて行われているいくつかの興味ある試みの報告をする。


4−1.ホールガーメントの誕生と進化


 2005年、デザイナーの菱沼良樹は、一体成型による「3D-KNIT」を発表した。「3D-KNIT」は、その名の通り立体的に作られたニットのジャケットやコートを含む衣服製品のことである。それらは、カッティングした型紙を用いて布を裁断し、縫製して組み立てる従来の布帛製品のように見える。しかし、この製品は、「ホールガーメント」と呼ばれる1台の編み機の中で製品を丸ごと編み上げて完成品を作る一体成型衣服である。身頃はいわゆる「ダーツ処理」がされており、バストの高さやウエストの絞りも縫い目を入れずに成型され、袖も同様に2枚袖のように腕の形に沿って前振りに湾曲して立体的に作られている。身頃と袖のアームホールの合わせも縫い目を入れずに続けて編まれ、更に、衿、袋布の付いたポケット、ベルト通し、ベルト、釦ホールや釦に至るまで全て一台の編み機の中で完成させている。これまで、コストや時間を省力化し、効率良いニット製品を作る点に効果を上げていると思われていたホールガーメントは、平面的なニット製品という概念を超え、そのデザインそのものの可能性を大きく広げ、尚かつ、これまでのファッション製品の生産システムをも変え、その他の可能性も秘めているように思われる。
 ホールガーメントとは、1995年ミラノで開催された第12回国際繊維機械見本市(ITMA)において、株式会社島精機製作所が発表したコンピュータで制御したニットの横編み機で制作された一体成型のニット製品で、無縫製ニットとも呼ばれるものである。
 従来のニット製品は、「カット&ソー」と「成型編み」の2つの方法によって作られている。「カット&ソー」は、丸編み機等を用いて布帛と同様に生地幅にニットを編成した後に、身頃や袖などパーツの型紙を使って裁断し縫製して組み立てる。この方法は、編成後に裁断、縫製という後工程を行うため、時間と手間とコストがかかる。また、型紙に合わせて生地を裁断するため、裁ち落とす材料のロスが多く生まれる。
 「成型編み」は、横編み機を用いて、パーツを型紙通りに平面的に編成した後に、縫製して組み立てる。この方法は、編成するために必要な糸だけしか使用しないため、材料のロスはなく、裁断する手間は省けるが、パーツを縫い合わせる手間は不可欠である。ニット製品は、糸から直接作り上げるため、前もってテキスタイル素材を量産する必要はないが、どちらの場合も、編成後の後工程が必要であるため、工業生産における最低経済単位であるロットの制約を受けることになる。
 ホールガーメントは、これまでニット製品において行われている身頃や袖などのパーツを別に編みたててから、裁断、縫製して組み立てるのではなく、編機の中で一着を丸ごと筒状に編み上げて立体的な完成品を仕上げる。身頃と袖の裾側からそれぞれ筒状に編み始め、袖下部分で身頃と袖は一体となり、編み目の目移しを行いながら、筒状に編み上げる。また別工程を必要としていたネックラインの処理も同時に一台の編み機の中で行う。ホールガーメントは、設計から生産までコンピュータで制御されているため、一度プログラムさえ組めば、何度でも自動的に同じ完成品を生産することが可能となる。縫製工場での後工程が不要なことから、工業生産におけるロットの制約もなく、1着からでも生産は可能である。また、コンピュータ制御されているため、連携しているCADのプログラムを変更すれば、ロットの制約からこれまで工業生産にのらなかった規格外のサイズや体型など着用者に個別に対応した製品の生産も可能になる。また、使用する糸の量をあらかじめ計算して編成することができるため、裁ち落としによる材料のロスがないことも特徴である。


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