3.おわりに

 「瀬戸内海へようこそ。多島海は複雑怪奇なところです」「皆さんがこの瀬戸内海のことをどんな風に感じるか、とても楽しみです」
 今は亡き恩師、地井昭夫氏(1940年〜2006年)の、この言葉から始まった瀬戸内海の船の旅は私たちを虜にした。

 35年前の、私が記憶する高度経済成長期の瀬戸内海の風景は、浮遊する多量のゴミや赤潮と、松が枯れて赤く染まった島々だった。
 しかし現在の過疎化と老齢化が急激に進む島々は、対照的に緑が増え自然が見事に回復していた。海水も美しく澄み、浮遊するゴミもほとんど無く、湾岸の中には魚影も見えた。

 私たちは長く瀬戸内海の海からの風景の価値を忘れていた。すべて陸側からの論理で海を見ていたようである。もう一度源に戻り、海からの眼差しを持ち、瀬戸内海諸地域の社会と空間の変遷過程を海側から明らかにする必要がある。歴史的に特に栄えていたとされる江戸時代から現代までの、海と人々との関係を沿海文化史の視点で、資料や現地調査を通して読み解く。

 神戸芸術工科大学を拠点としながら、将来的には専門分野を超えた研究者が連携して瀬戸内海諸地域の調査を実施し、瀬戸内沿海文化史から見た参画と協働に基づく地域活性化への提言を行いたいと考えた。  

 「千を超える島々は、限られた土地と海を共有し、個とコミュニティが連携して自立している。その知恵を学べ」「今忘れられようとしている、瀬戸内海の島々の環境と歴史文化の再評価は、日本の未来を担う」など、私たちを刺激しつづけた漁村研究者地井昭夫の語録には事欠かない。

 この資料は、瀬戸内海研究の第一歩として行った研究内容をまとめたものである。次なるステップとして、私たちは「シーボルトがみた瀬戸内沿海域の景観が持つ固有価値の再評価」を研究目標として掲げた。
 地井氏曰く「宇宙よりも広い瀬戸内海」を対象に今後も継続的に研究を行い、瀬戸内の地域活性化への提言を発信しつづけていきたいと考えている。
(研究代表者 齊木崇人)

[研究協力者]
(神戸芸術工科大学)
 李勝煥
 宮代隆司
 姜燕
 周丹
 王曄
 任亜鵬
 木下怜子
 岩田谷由香
 奥理津子

(広島国際大学)
 高新
 藤井浩志
 山本剛志

(法政大学)
 石渡雄士
 八木邦果
(マリーンシャトル船長)
 村上寛



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