2 場所のイメージをめぐる映像上映会の試み

 前章の調査・研究を受け、西宮市御前浜の空間のさらなる活用法を探るためにおこなった映像上映会の概要と、それによって検証された内容を報告する。
  前章においては、地域住民と外来者による浜の使われ方のギャップ、および無料貸し出し椅子というツールの効果などを確認した。そこで、地域住民と外来者との壁を取りはらうような開放感を持ち、しかも地域性や浜の空間特性をさらに生かすような方法はないかと考えたのが今回の映像上映会という企画である。
  具体的には、後述するような御前浜の歴史や現状を伝える映像を、浜辺に設置した仮設スクリーンや既存の防潮堤などに投影し、地域の歴史や現状、および浜の空間の新たな使い方についての認識を、来訪者に深めてもらう実験をおこない、さらにアンケートによって、その効果を確認した。


2−1 上映会の概要


2−1−1 実施日時 
 2005年8月20日(土)17:30〜20:00。

2−1−2 実施概要
 浜に設置した自作スクリーン( 1.8m×18m/1基、1辺6mの三角形/1基)、西宮砲台外壁、防潮堤、砂浜などに向けて、御前浜の過去から現在までの写真、現在の使われ方を示す図版、新たに制作したイメージ映像などを投影した。上映会の名称は「浜辺の幻燈会」とし、地域の自治会等の協力を得て広報をおこなった。スタッフとしては神戸芸術工科大学の学生を動員し、上映作業はもとより、来訪者の安全確保等にも留意した。

2−1−3 上映した映像

写真4 提供された写真の一例(写真提供:浅野悟郎氏/撮影:浅野昌隆氏)

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写真4 提供された写真の一例(写真提供:浅野悟郎氏/撮影:浅野昌隆氏)

 前章の調査以来、我々は地域との関係を深めている。そこで、上映作品の制作に当たっては、地域住民の自宅や関係諸機関に眠る御前浜の写真を収集し、さらに御前浜に関するヒアリングを通して浜に対する思いを表す言葉も集め、それらを素材として以下の4種類の映像をつくった。
(a):近隣住民が撮影した昭和30年代から40年代の御前浜の写真、および阪神電鉄が経営した戦前の海水浴場等の写真(写真4)。
(b):(a)の上に、住民へのヒアリングで得られた御前浜対する思いを表す言葉をコラージュした映像 
(c):本研究の前編による調査結果を示す図版。
(d):自由なイメージ構成による映像作品 



2−1−4 投影場所
 以下の4ケ所を中心にして上記の(a)〜(d)で示す映像を投影した(図10)。スクリーンは半透明の寒冷紗を用いてつくり、投影された映像の向こうに遠くの風景が透けて見え、重なり合う効果を生んだ。


図10 当日のスクリーンの配置

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図10 当日のスクリーンの配置


写真5 1.8m×1.8mの長いスクリーン

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写真5 1.8m×1.8mの長いスクリーン

写真6 1辺6mの三角形のスクリーン

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写真6 1辺6mの三角形のスクリーン



写真7 西宮砲台外壁

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写真7 西宮砲台外壁

写真8 防潮堤

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写真8 防潮堤




2−2  アンケート調査


2−2−1 アンケート調査の実施
 上映会の来訪者に対し、御前浜に関する以下の質問項目のアンケートを実施した。

性別/年齢/居住地/誰と来たか/浜に来る頻度/上映会をどのようにして知ったか/良かった映像/悪かった映像/印象に残った映像/歴史や住民の思いを映像で示したことについてどう思うか/上映会全般の印象/今回のような浜の使い方についての感想/実施時間帯について/今後このような企画があれば参加したいか

2−2−2 アンケート調査の結果(図11)
 今回の幻燈会の案内は御前浜から徒歩圏内の地域を中心に行ったため、来訪者の多くは地元住民であったが、主催者や行政の関係者など、西宮市以外からも全体の20%程度の来訪者があった。また来訪者の年齢層は子供からお年寄りまでと幅広い。来訪者の半数は、日常的にも週1回以上御前浜を訪れているが、一方で「めったに来ない」、「初めて」という人も3分の1以上を占めていた。
 また、これまで御前浜で市民参加型の整備計画策定のための様々な活動が行われていることについて質問したところ、それを認知していた人が約40%、認知していない人が約60%という結果であった。このことから、今回の上映会は、これまで行われてきた活動に関心があった人とは異なる層にも訴えかける力を持っていたと考えられる。


図11 アンケート結果集計グラフ

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図11 アンケート結果集計グラフ

 
 映像の内容については、昔の写真が印象に残ったという人が最も多く、歴史や住民の思いを作品化したことについても、高い評価を得た。創作的な映像については、印象に残ったという意見は少なく、「もっと説明がほしい」等の声も聞かれ、特に地元の高齢者には、分かりにくいと受けとられたようである。しかし、「砂浜の新しい風景を体験できた」「普段気にすることのない歴史遺産が生き生きと動き出しそうだった」といった声もあり、単に映像内容だけではなく、場所との関係における上映会の意義も理解されていたと考えられる。
 また、クロス集計をおこなった結果、年配の方には防潮堤に映した昔の写真が、若い層にはスクリーンや砲台に映した現代的な映像が好評を博すという違いがみられた。


2−3 映像上映会のまとめ


 今回の上映会およびアンケート調査によって、以下のことが明らかになったと考えられる。

  • 会議室や映写室ではなく、現実の空間の中で、その空間の歴史や現状を示す映像や言葉に包まれることは実に新鮮な体験であり、地域に対する知識を増し、認識を新たにする上で効果的な方法である。
  • 地域に死蔵されている映像資料を発掘・収集・公開する手法として、つまり歴史や記憶のアーカイブ化や継承のための手法として、今回のような上映会は有効である。
  • このような開かれた場での企画は、限られた参加者による準備作業としてのワークショップとは異なり、対象としている空間のデザインそのものとなり得る。

こういった成果をもとに、今後、貴重な自然海浜としての御前浜の魅力を守りつつ、開かれた公共空間としての新しい可能性を探っていきたい。



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