7 エコロジストの自家菜園

(37)デジャーデン由香理さんと1歳になる三男のファビアン

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写真37 デジャーデン由香理さんと1歳になる三男のファビアン


(38)ウーフのガイドブック

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写真38 ウーフのガイドブック

 由香理さんは、パーマカルチャー・インスティチュートで学んだパーマカルチャリストだ。ウェス・ジャクソンが著書『農業のための新しい基礎知識』で「これからの地域適正型コミュニティを維持するには、雑多な作付けによる永続的な家庭菜園型農業がきわめて有効である」と主張したが、彼女はまさにそれを具現化している。
 由香理さんの自宅は、敷地いっぱいに無農薬野菜の畑と果樹園が広がり、5人家族の食料自給率は80%にもなる。1歳になる一番下のこどもの手がかからなくなったら、完全な自給自足を目指したいという。(写真37)
 敷地内にはウーフの宿泊施設「ささやく樹」がある。ウーフ(WWOOF)とは、旅人に食事と宿泊を無料で提供する代わりに、農作業や家事を手伝ってもらうシステムのこと。(写真38)こうして旅をする人をウーファーという。多くの若いウーファーは、オーストラリア中を旅してまわり、実地で無農薬農法を学ぶ。家により作業内容はまちまちだが、それがまた勉強になる。日本でもウーフは一部でおこなわれているそうだ。


 パーマカルチャーは、1974年にビル・モリソンがデビッド・ホームグレンとともに考案した永続的農業の枠組みだ。彼の著書『パーマカルチャー 農的暮らしの永久デザイン』によれば、パーマカルチャーとは「多年生の樹木や灌木や草本(野菜や草)、菌類、根系などに基礎を置いた多種作物農法」とある。しかし、モリソン自身がいうように単なる自給のための農法ではなく、「建築学と生物学、農学と林学、林学と畜産学などを組み合わせ」た「人間生活全体を含むシステム」のデザインだ。
 またモリソンは、パーマカルチャーのポイントは、ものとものとの間にある関連性をうまく利用することだという。ものには様々な特性がある。ものとものは、それぞれの特性のいくつかが生きるかたちでつながっており、ほかのものとは、また別の特性において結びついている。私たちがその複雑な連鎖を理解し、もっとも効率よく機能させることが、自分たちの暮らしの持続性を高めることになる。


(39)半球型の金網ドーム

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写真39 半球型の金網ドーム

 由香理さんの畑では、つながりの輪が巧みに生かされている。なかでも特筆すべきは、ニワトリとミミズだ。
 まず、『パーマカルチャー……』の冒頭でモリソンが分析した、ニワトリのつながりを紹介しよう。彼は、システム内の各構成要素を「特徴」「必要とするもの」「産出するもの」の3つに分け、正しく分析し把握することが重要と説く。そして、ニワトリの3項目を以下のように分析する。
 「品種固有の特徴」には、血統、色、寒暑耐性、品種特有の行動をあげ、「行動の特徴」としては、引っ掻く、エサをあさる、飛ぶ、けんかするをあげる。「必要とするもの」は、小屋、砂利、砂、水、空気、食べ物、仲間のニワトリとし、「産出物」は、卵、肉、羽毛、鶏糞、メタンガス、炭酸ガスをあげる。
 ここから、ニワトリとほかの構成要素(母屋、畑、温室、果樹園、林など)との関係を導きだす。一例を挙げよう。モリソンはニワトリと畑のつながりについて、こう指摘する。

 「畑には、耕起、施肥、種子播き、収穫、作物の貯蔵などが必要であり、(畑は)ニワトリや人に食物を提供する。ニワトリは肥料提供者兼耕作者としての役割を演ずる(狭いところに多数のニワトリを入れれば、その場のすべての植物をみごとに片づけ、土をひっかいて天地返ししてくれる)。(中略)ニワトリを自然に行動させ、適正なところに放しておけば、ニワトリにたくさんの『仕事』をさせることができる」

 由香理さんの菜園では、ニワトリ3羽が直径2mほどの半球型金網ドームで飼われている。(写真39)与える餌は生ゴミや余った野菜で、すべてオーガニックの良質なものばかりだ。ニワトリは土を引っ掻くことで、生ゴミや野菜などの窒素源と、別に与えられた藁などの炭素源、そして自らの排泄物である鶏糞を土と混ぜあわせる。炭素源は、ほかにウッド・チップ、ハーブや様々な植物を乾燥させたもの、炭の粉、貝殻や石の粉、爪、髪の毛などがある。こうして、ドーム内の地味は肥えていく。

(40)3つの円い畑

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写真40 3つの円い畑

 ニワトリのドームの横に、同じ大きさの円い畑がふたつある。ひとつは野菜や穀物、豆を育て収穫する円で、もうひとつは次に植えるための緑肥を育てる円だ。緑肥には大豆、小豆、クローバー、ルーセン、雑穀、麦、米などがあり、通常は豆科と穀物類を混在して植える。これらふたつの円とニワトリの円が2〜3か月ごとにローテーションする。

 私がいった時点では、収穫の畑ではトウモロコシが育ち、緑肥の畑は大豆などを刈り取る直前だった。(写真40)ニワトリは金網ドームごと大豆畑に移され、それまで肥やしたところには新しい作物が植えられる。隣の畑のトウモロコシが収穫されると、ニワトリはまたそこに移され、今までいたところには新しい作物が植えられる。
 こうして3つの畑は、3回に1度、ニワトリにより地味が回復される。モリソンはこれを、動物トラクターと呼ぶ。ちなみに、円い畑は3つ以上でも構わない。


(41)シマミミズと腐植土

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写真41 シマミミズと腐植土


(42)ふたつのホット・コンポスト

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写真42 ふたつのホット・コンポスト

 ミミズも畑とつながっている。
 由香理さんの菜園には、古いバスタブがある。トタンの覆いをはずし黒く変色したムシロをめくると、焦げ茶色の土塊のなかで大量のシマミミズが飼われている。(写真41)タイガー・ワーム、レッド・ワーム、アフリカン・ナイト・クローラー、インディアン・ブルー。4種類のシマミミズは、私の目には見分けがつかない。土塊はすべてミミズの排泄物で、ミネラルやビタミン、バクテリアなど土に欠かせない栄養素がたっぷり含まれた素晴らしい腐植土だ。ヒューマス(Humus)という。
 ミミズの餌は、好物の牛糞、菜園で採れたニンジンやカボチャなどを細かく卸したものが中心で、時折葉っぱ類やハーブを混ぜ、体調管理をはかる。農園で廃棄されたマッシュルームの首の部分も堆肥づくりの材料として重要だ。夏の乾燥時は、スイカなどの果物や、さらに状態をよくするため、カモミールやかのこ草のハーブティーも与える。このシステムは太陽光を必要としないため、コールド・コンポストと呼ばれる。
 いっぽう、太陽光を利用するものは、ホット・コンポストといわれ、おもにキッチンからでる生ゴミを発酵させミミズの餌にする。外観は、一辺が70cmほどの四角い筒状で、高さが1mぐらいのポリ容器だ。上部のフタから生ゴミと乾燥藁を入れる。外側から触れると、高さ50〜60cmぐらいのところがほんのりと暖かく、内部で発酵が進んでいるのがわかる。容器の底は抜け、直接大地とつながっているため、周囲のミミズが自然と発酵物に集まってくる。できた腐植土は、下部の取りだし口からだす。由香理さんの家にはホット・コンポストがふたつあり、これで一家の生ゴミが残らず処理されるという。(写真42)
 コールドとホットでは、できた腐植土の性質が違う。コールドは一カ所にとどまり、ホットは徐々に拡散していく特性がある。そのため両方あわせて土に還すと、植物は、最初コールドの腐植土で育ち、根が広がるにしたがいホットの腐植土から栄養分を吸収するようになる。
 繊細な自然の摂理が最大限に活用されている。




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